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» 2009年12月17日 08時00分 UPDATE

導入事例:透明で公正――国の施策に先んじアカウンタビリティを確立した、岐阜県の取り組み

多くの自治体が財政状況に苦しむ要因として、経済状況の悪化だけでなく、従来の会計制度の限界も挙げられる。そこで総務省を中心に、より厳密で透明性のある会計処理を実現する動きが本格化している。ところが、この改革を国に先んじて実現してしまった自治体があるという。それが岐阜県である。

[井上健語(ジャムハウス),ITmedia]

会計制度の改革を進める国、改革を完了させた岐阜県

 現在、全国の自治体はいずれも厳しい財政状況にある。不況や高齢化など多くの理由が考えられるが、従来の会計制度の限界も理由の一つとして指摘されている。従来の方法は、単年度の現金の流れだけを見るため、自治体の財政状況を正確に把握するのが困難とされているのである。

 この問題を解決するため、国は新しい会計制度の検討を開始。平成17年12月には「行政改革の重要方針」という閣議決定を受け、総務省が「新地方公会計制度研究会」を発足させる。同研究会の成果は平成18年5月に報告書としてまとめられ、それを受ける形で、平成18年8月、総務省により「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針」が策定された。

 その中では、「貸借対照表」「行政コスト計算書」「資金収支計算書」「純資産変動計算書」の4表を作成することが明記され、都道府県と人口3万人以上の都市は3年後(平成21年)まで、町村と3万人未満の都市は5年後(平成23年)までに実施するという具体的な期限も示されたのである。

 以上は国の動きであるが、この国の動きに先んじて会計制度の改革に乗り出し、既に改革を完了させてしまった自治体がある。それが岐阜県である。

戦略的アウトソーシング事業の一環として会計業務の抜本的な改革に着手

hibi.jpg 出納事務局 出納管理課 総合財務企画監 日比哲也氏

 岐阜県では、平成13年から「情報関連業務戦略的アウトソーシング事業」をスタートした。その狙いについて、出納事務局 出納管理課 総合財務企画監の日比哲也氏は次のように説明する。

 「以前は、県庁内の各課で123個のシステムが稼働していました。いずれも各課で独自開発したもので、データ連携などは考慮されていませんでした。戦略的アウトソーシング事業では、これらをすべて見直し、同系統のシステムをまとめて再開発することで、開発コスト・機器コスト・運用コストを下げ、同時に情報産業の育成にもつなげることが大きな目標でした。平成14年からスタートした財務会計システムの再開発も、その一環だったのです」(日比氏)

 県庁内のシステムは、人事給与、財務会計、公共事業、森林、病院、申請・台帳システムなど、さまざまなものがある。戦略的アウトソーシング事業では、取り扱うデータの関連性、事務の共通性を勘案し、123個のシステムについて総合的に再開発を行った。従って、財務会計システムの再開発は、あくまで戦略的アウトソーシング事業の一部という位置付けだった。ただし一部とはいっても、県庁ともなるとその規模は大企業並みのスケールになる。

 平成21年度のデータでは、岐阜県の予算規模は約7600億円、事業数(一般会計歳出予算)は3700にも上る。これだけの規模の予算編成、執行、決算という一連の流れを総合的に管理するシステムが、新たに必要とされたのである。

会計業務の“あるべき姿”をゼロベースから積み上げる

 開発に先だって、会計業務のあるべき姿をゼロから考えて「こうあるべき」という姿と現状の問題点の両面から議論を重ね、10個の検討課題を抽出した。さらに、これらの検討課題を7つのワーキンググループで整理・分析し、その結果を踏まえて制度の見直し、業務プロセスの改善などのいわゆるBPR(Business Process Re-engineering)を実施した。

 具体的には、「組織・制度の見直しBPR」「プロセス改善のBPR」「簡素化・効率化BPR」の3つを実施し、「岐阜モデル」という新しい事務の流れを作り出した。その上で、このモデルをシステムの基本設計へと落とし込んでいき、機能設計、構成設計……という開発工程へと進んでいったのである。

 少し聞いただけでも気が遠くなりそうな膨大な作業量だが、その過程では、さまざまな議論・苦労があったことは容易に想像できる。例えば公金セキュリティのワーキンググループでは、「透明性のある会計事務をシステムによってどこまで担保できるかを、会計士の意見を取り入れながら議論を進めました。そこで、第三者によるチェックの必要性が確認できれば、それを機能要件として盛り込んでいくといった作業を繰り返しました」と日比氏は明かす。

 プロジェクトのスタートが平成14年の7月。そこから約5年を経て、19年度予算から新しいシステムが本格稼働を開始。予算編成が平成18年の10月から、執行関係が平成19年の3月から、物品などの財産管理が平成19年の6月から稼働を開始している。

総合財務会計システム 総合財務会計システム(クリックで拡大)

最大の効果は「透明かつ公正な会計処理」と「アカウンタビリティ」の確立

 新しいシステムが動き出して、最も大きく変わったのは、職員全員がシステムを活用することになった点である。出納事務局 出納管理課 総合財務担当課長補佐の棚瀬正樹氏は稼働開始時を振り返って語る。

 「今までは限られた職員だけが使っていたシステムを、これからは全職員が使っていくということで、一般職員の間に不安があったのは確かです。出張一つをとっても、これからは職員一人一人が入力する必要がありましたので。しかし、これが時代の流れであるという認識は、全員が持っていたと思います」(棚瀬氏)

 総合企画部 情報企画課 システム担当課長補佐(当時は出納管理課)の大野鉱三氏は、「どんなシステムでも、導入直後は賛否さまざまな意見が出てくるものです。岐阜県の場合も、事前に自由操作研修期間を設けたり、マニュアルも配布したりしていましたが、徐々に業務を効率化するさまざまな利点に職員も気づいてくれたと感じています」と語る。

 また、データの分析・加工という点でも新システムのメリットは大きいと総合企画部 情報企画課 システム担当(当時は財政課)主査の棚橋博司氏は言う。

 「厳しい財政状況の中で事業を絞る必要に迫られ、『建設関連で金額の大きい事業を調べなければならない』となった場合、従来は、紙の資料を調べたり、データベースからデータを抽出するプログラムを業者に発注したりする必要がありました。しかし、新しいシステムでは、データをExcelに読み込んで簡単に分析できるので、作業が大幅に効率化されました」(棚橋氏)

 新システムによって各課の業務はさまざまな点で効率化された。ただし、予算執行にあたっては、予算で決めた最も細かいレベルまで厳密に入力する必要があるため、職員の手間が増えているのも事実である。しかし、それによって得られるものこそが、新システムの最大の成果であると大野氏は強調する。

 「予算は『款』『項』『目』『節』……といった単位でどんどん細かくなっていきます。議会の議決は『項』ですが、県民へのアカウンタビリティという点では、最も細かいレベルまで厳密に管理され、説明できる状態になっていることが重要なのです。今回のシステムでは、それが実現できました。それによってアカウンタビリティを確立できたことが、最大の成果です」(大野氏)

tanase.jpgtanahashi.jpgohno.jpg 出納事務局 出納管理課 総合財務担当課長補佐 棚瀬正樹氏(写真=左)、総合企画部 情報企画課 システム担当主査 棚橋博司氏(写真=中)、総合企画部 情報企画課 システム担当課長補佐 大野鉱三氏(写真=右)

完成した最高のシステムは、ほかの都道府県への導入も積極的に支援

 現在、「新地方公会計制度」に対応するため、多くの自治体が調査・検討を行っているという。ちょうど、平成13〜14年あたりの岐阜県の状況にあると考えればよいだろう。岐阜県の場合、そこから約5年をかけて、現在のシステムを作り上げた。同じことをほかの都道府県がやろうとしても、現実問題として時間的、費用的に難しい。最も合理的なのは、岐阜県が作り上げたシステム、および蓄積されたノウハウを利用することだろう。

 こうした需要を見越して、平成20年12月、開発を担当した東芝ソリューションと岐阜県は、総合財務会計システムに関する著作権利用に関する覚書を取り交わした。その意義について、日比氏は次のように強調する。

 「都道府県は、いずれも地方自治法に従って会計処理を行っています。都道府県によって財務規則・会計規則などが若干異なるため、ある程度の調整は必要になると思いますが、基本的な会計処理は共通ですから、われわれのシステムを活用することで、総務省の指針にある『基準モデル』をクリアできるのはもちろん、透明で公正な財務会計の仕組みを短期間で構築できるはずです」(日比氏)

 今後、岐阜県のシステムとノウハウが、全国の都道府県へと移植されることは間違いないだろう。その成果が続々と報告されるようになったとき、今回のプロジェクトの真の価値が明らかになるのではないだろうか。

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