両者の思惑が一致したIntelによるMcAfeeの買収劇

IntelによるMcAfeeの買収は、セキュリティ分野で差別化を図りたいとするIntelと、セキュリティ専業から次なる成長を目指すMcAfeeの思惑が一致した“幸せな結婚”と言える。

» 2010年08月20日 16時04分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 米Intelは8月19日(現地時間)、セキュリティ企業の米McAfeeを76億8000万ドルで買収することで合意に達したと発表した。今回の買収劇には、今後の成長戦略における2社の方向性の一致があるようだ。

IntelとMcAfeeの思惑

 Intelは買収理由に、セキュリティ技術の取り込みを挙げている。一方、McAfeeのデビッド・デウォルトCEOは「この買収により、毎月数百万に上る新しい脅威が生まれる状況において、安全かつ信頼できるインターネット接続機器の利用体験を実現できるようになる」とリリースの中でコメントした。

 Intelが挙げた方向性は、今回の買収によって初めて明らかになったわけではなく、既に同社が以前から独自に取り組んできたものである。同社の企業向けクライアントPC管理技術「vPro」がその代表例だ。vProには、企業の管理者がリモートからPCを管理できる機能や省電力機能のほか、今年春にはPCの紛失・盗難対策機能とHDD暗号化の高速処理機能が追加された。つまり、コンピュータの管理性向上と電力の効率化、セキュリティ対策機能の一部を既に製品として具現化しているのである。

 モバイルワイヤレス戦略でも、長年にわたるWiMAXのクライアントサイドでの技術開発や投資活動、「Atom」プロセッサに代表されるチップセットの推進活動が知られている。こうしたモバイルワイヤレスとvProのような取り組みは、Intelにとっては既定路線ともいえる。

 この方向性をさらに拡充する上で同社は、より高度なセキュリティ技術を同社の製品ブランドに組み込むことや、コンシューマー市場でのモバイル需要の取り込みが必要だと判断したようだ。

 PC向けのウイルス対策ソフトの開発を起源とするMcAfeeは、ここ数年、「セキュリティ技術専業」企業を表明して、ネットワークセキュリティやデータセキュリティ、コンプライアンス支援といったさまざまなセキュリティ領域に進出してきた。だがセキュリティ技術専業という同社の方向性は、多種多様なセキュリティ対策を必要とする法人市場では浸透しつつあったものの、コンシューマー市場では「ウイルス対策ソフトメーカー」という創業時のイメージから脱却できないでいた。

 同社がセキュリティ技術専業企業としての立場をより明確にしていくには、コンシューマー、法人を問わず、多くの顧客にアプローチできることが重要となる。そのためPCやサーバ製品で高いシェアを持ち、セキュリティ技術の開発でも長く協業関係にあったIntelの買収提案に応じることは必然といえるだろう。

セキュリティがコンピュータのインフラに

 IntelのMcAfee買収によって、今後のコンピュータ製品はセキュリティ技術がよりプラットフォームに近い領域に実装されるようになると考えられる。従来はプラットフォーム技術とセキュリティ技術が連携しつつも、原則としてそれぞれが独立したものであった。例えば、PCを新規購入するとセキュリティ製品がバンドルされていることもあるが、ユーザーはほかのセキュリティ製品を自由に利用できるといったようにだ。

 プラットフォーム技術とセキュリティ技術の融合は、コンピュータの1つの流れともなっている。米EMCによる米RSA Securityの買収がその代表例だ。最近でも米Hewlett-Packardが米Fortify Softwareの買収を表明した。

 今回のIntelによるMcAfeeの買収では、McAfeeはIntelのソフトウェア&サービス部門の傘下に置かれるが、独立子会社として運営され、これまでの経営体制や事業ポートフォリオが維持される点が注目される。

 今後Intelは、McAfeeのセキュリティ技術をプロセッサ開発などに取り込んでいくが、具体的な製品展開などは当面先になるだろう。McAfeeの製品やサービスの提供も従来通り継続されるため、Intelによる買収がMcAfeeの顧客に与える影響はほとんどないとみられる

 買収完了後、2社がどのようなコンピュータセキュリティを実現していくのかに注目したい。

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