Oracleへの反撃に向けたHPの秘策Weekly Memo

世界のサーバ市場をリードするHPが、相次いで同市場に参入してきたOracleやCiscoに対して反撃の狼煙を上げ始めた。その秘策とは――。

» 2011年01月11日 10時55分 公開
[松岡功,ITmedia]

HPがデータベース市場参入を宣言

 「データベースやネットワークの市場は一部のベンダーが独占的なシェアを握り続けており、サーバ市場のように顧客メリットとなる競争原理が働いていない。HPはそうした寡占化市場で競争原理を働かせるべく、これから積極的に打って出る」

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括サーバーマーケティング統括本部の上原宏統括本部長は1月6日、同社が開いた記者会見で、「これが2011年のHPのエンタープライズ製品事業戦略だ」と強調した。

記者会見に臨む日本HPエンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括サーバーマーケティング統括本部の上原宏統括本部長(左)と同製品戦略室の山中伸吾室長 記者会見に臨む日本HPエンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括サーバーマーケティング統括本部の上原宏統括本部長(左)と同製品戦略室の山中伸吾室長

 会見内容はサーバ事業戦略と聞いていたので、この発言には少々驚かされた。ましてやデータベースやネットワークの市場に打って出るというのは、それぞれの市場をリードするOracleとCisco Systemsに真っ向から対抗することを意味する。

 だが、考えてみると、これはHPによるOracleやCiscoへの反撃だ。Sun Microsystemsを買収したOracle、クラウドに向けて事業領域を拡大したCiscoが、ともにサーバ市場に参入してきたことへの意趣返しといえる。果たしてHPはどのような戦略を考えているのか。

 上原氏はその基本的な考え方として、「これから日本の企業に求められるのは、これまでとは次元の異なるコスト削減や品質向上、スピードアップに挑戦すること。そのためにはこれまでの固定観念を覆す必要がある」とし、日本HPとして新たにサーバを軸とした「HP ServerPlus」と呼ぶ戦略を打ち出した。

 日本の企業が持つ固定観念の例として同氏が挙げたのは、「ネットワークにはCiscoが最適」「ストレージはどんな組み合わせでも大差がない」「Linuxは安価でUNIXは高価」「サーバ仕様の詳細なカスタマイズは不可能」「国内公共システムといえば国内ベンダー」「無停止システムは高価で非オープン」「データベースには選択肢が少ない」の7つ。そして、HP ServerPlus戦略に基づくそれぞれの施策を説明した。

 この中で冒頭の発言を指しているのは、「ネットワークにはCiscoが最適」と「データベースには選択肢が少ない」である。

 まずネットワークについては、「3comの買収によって入手したスイッチ仮想化技術とHPのバーチャルコネクト技術を組み合わせることで、Ciscoと従来のサーバの組み合わせよりケーブル・ポート数を99%削減できる。また、サーバ故障時にネットワーク全体を再設定する必要もなくなる」(日本HPエンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括サーバーマーケティング統括本部製品戦略室の山中伸吾室長)と、Ciscoと比べて優位性を強調した。

来るか? HPとSAPが合併する日

 一方、データベースについては「近日中に発表する予定」(山中氏)。ちなみに上原氏と山中氏が説明したHP ServerPlus戦略の内容は、日本HPが日本市場向けに打ち出したものだが、データベースやネットワークの市場に打って出るというのは「グローバルなHPの戦略に則ったもの」(日本HP幹部)だという。

 こう言われるとますます気になる。果たしてHPはOracleデータベースに対抗できるような製品を「近日中」に打ち出せるのか。HPの戦略に詳しい業界関係者によると、「近日中に発表されるのは、おそらくNonStop SQLの新製品だろう。NonStopサーバの新製品との組み合わせによって、ハイエンドのデータベースシステムとしてOracle Exadataに対抗するのではないか」という。

 だが、その程度では、データベース市場で競争原理を働かせたいというHPの目標にはほど遠い。データベース市場でOracleと本格的に戦っていくための秘策はあるのか。その業界関係者はおもむろにこう語った。

 「HPが将来をにらんで目論んでいるとみられるのは、データベースとして実績のあるSybaseを手に入れること。となると、昨年7月にSybaseを買収したSAPとどう組むかが焦点となる。HPとSAPはグローバルで多くの共通の顧客を有しており、事業領域も補完できる関係にあることから、場合によっては合併も視野に入れているのではないか」

 折しも昨年11月1日付けでHPのCEOに就任したレオ・アポテカー氏は、SAPの前CEOを務めていた人物だ。SAPのCEOを辞任した経緯がネックにならなければ、クラウド時代に向けて、Oracle、そして宿敵IBMに対抗する目的でSAPの経営陣と思惑が一致する可能性はある。

 もし、HPとSAPが合併すれば、それこそIT業界の勢力図は大きく変わる。と同時に、クラウド時代に向けて垂直統合のビジネスモデルが一層加速するだろう。HPの反撃が果たしてどれだけのインパクトをもたらすのか、注目したい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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