サービスマネジメントの新しい「鼓動」

南北戦争当時の水道管をスマート化――米国首都の水道事情にサービスマネジメントの真髄を見たIBM Pulse 2011 Report

Pulse 2011を通じて実行力にこだわりを見せるIBM。複数のユーザー企業が「サービスマネジメントの実装を主導できるのはビジネス視点を有した部門」と証言する。イノベーションの主役たるサービスマネジメントはどのような革新をビジネスにもたらしたのだろうか?

» 2011年03月03日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 米国ラスベガスで開催中のPulse 2011(米IBMによるサービスマネジメントを主題にした年次カンファレンス)では、「実行力」の重要性を問うた初日の内容を受け「戦略と、その実装」がゼネラルセッションの話題となった。

 「我々は100年間、ユーザーのビジネスプロセスを最適化し、ビジネスの効率化をもたらす取り組みを続けてきた」とIBMでソフトウェアソリューショングループのシニアバイスプレジデントを務めるマイク・ローディン氏は主張する。「例えば小売業界を見てみよう。1970年頃、彼らはサプライチェーンの構築や、流通・在庫管理の非効率化に苦しんでいた。そこに、バーコードとスキャナを中心とした仕組みを提案し、業界のトランスフォームを支援したのはIBMだ」(ローディン氏)

 だが2011年現在のビジネス状況は、当時の手法を単純に踏襲できるものではない。企業は“データ爆発”のさなかにあり、市場も複雑性を増している。ローディン氏もそのことを心得ており「ビジネスプロセスを変革するには、データを集めるだけではダメ。より賢いアプローチが必要だ」と話す。「そのためにはアナリティクスが有効。ユーザーがアナリティクスを通じて得たビジョンを、実装のコンテクストに落とし込む。IBMはそこまで支援する用意がある」(ローディン氏)

 同氏はいくつか実際の事例を紹介する。例えばケンブリッジ市は、今や12億もの(非IT)資産をTivoli/Maximoの管理対象とし、スマートシティ化を図っているという。また日本の福岡地区水道企業団では、およそ230万人の住人に対する水の需給を、予測的にコントロールできるプロセスを構築し、1256億円のコスト削減を成し遂げたという。

 「われわれの主張の根底にあるのは“周りの世界の状況を、予測的に理解できるシステムを構築してほしい”ということ」とローディン氏は話す。「問題のみに注目してはいけない。結果を重視すること。これがビジネスを成功に導く秘訣だ」(ローディン氏)

Maximoで水道の需給を管理している福岡地区水道企業団の導入効果。右下がスピーカーのローディン氏。

受け入れられなかった計画は“絵に描いた餅”

 当日は、サービスマネジメントによって成功を収めたユーザー同士が語りあうパネルディスカッションも開催された(昨年の趣向と同様だ)。スイス連邦鉄道(SBB)では2005年に、国中に及ぶ大規模なダイヤの乱れを引き起こしてしまったという。

 「抜本的なオペレーション変革(トランスフォーメーション)が必要だ」と感じたSBBのマーティン・シャーレン氏がサービスマネジメントの手法を取り入れたのが、2008年のこと。当初は「従来のオペレーションスタイルにこだわるあまり、サービスマネジメントに否定的な考え方の人も多かった」(シャーレン氏)というが、同氏は「どんなに素晴らしい計画でも、受け入れられなければ“絵に描いた餅”」との考えのもと、地道にコミュニケーション(説得、啓蒙)を続け、成果を挙げたという。

 そのため「サービスマネジメントこそが唯一、ビジネスプロセスやアセットの価値を高めるものだが、時間がかかる。期間を決めて取り組んではダメだ」とする。「サービスマネジメントはIT部門のプロジェクトではない。ビジネス部門が長期的に主導して、普及を図るべきだ」(シャーレン氏)

 テキサス州コーパスクリスティ市(人口は約28万人)で“Administrative Superintendent”の地位にあるスティーブ・クリッパー氏も「わたし自身、ITとは無縁の人間であり、むしろなんでもコンピュータ任せにすることには懐疑的だった」と振り返る。

 クリッパー氏が“転向”したきっかけはこうだ。2000年のこと、それまで市の専業であった電力事業に、民間企業が参入の名乗りを上げたという。比較のため市側のサービスレベルを数値として可視化する必要があったが「何も把握できておらず、数値化できなかった」とクリッパー氏は振り返る。

 これを契機に、電力だけでなく水道、ごみ処理、道路・空港管理などにMaximoを導入(電力事業も、引き続き市が担うことになった)。その結果、例えば「下水修理依頼の30%は、1.3%の住民からもたらされている(特定地域の下水網に問題があると推定できる)」といった知見が得られるようになったという。「問題を理解できれば、結果を得るために適切な投資を行える。そのための一歩がサービスマネジメントであるということ」(クリッパー氏)

イノベーションとは、ジャンプアップすること

ボトルウォーターを手に「みんな水道水を飲もう! 市販の水よりも清潔だよ!」とホーキンス氏。作業ジャケットも良く似合っている

 参加したユーザーの中で、もっとも意気が上がっていたのは、ワシントンD.C.上下水道局のジョージ・ホーキンス氏であろう。制服をまとって登壇した同氏は、水道事業の宿命とも言える特殊性を説く。「上下水道の仕組みを理解している市民はほとんどいない。専売の事業であるからイノベーションがなく、単に有利な条件でモノポリーをしているようなもの」と同氏は話す。「皆さん、知っていましたか? 米国首都の水道管として、南北戦争当時のものがいまだに使われているのです!」(ホーキンス氏)

 ホーキンス氏のユニークな点は、こういった現状に安住しないことだ。「給水状況を改善するために“水道管を交換する”という対策を選ぶと、全て交換するのに200年も掛かってしまう! だからこそ交換だけでなく、スマートメーターを設置して、水道の需給予測にアナリティクスの考え方を取り入れた。今では個々のユーザーが、Webのポータルから水道の利用状況を確認できるし、使用量から水漏れなどが疑われる際は予防検地できる」(ホーキンス氏)

 同氏は「イノベーションとは、ちまちま取り組むのではなく、一気に飛び越える形でトランスフォームすること」と話す。「アウトサイド・インではダメ。インサイド・アウト(自ら問題解決にアプローチする)のスタンスが重要。それができるのは、ビジネスの視点を持つ部門だけだ」(ホーキンス氏)

 なおPulse 2011のセッションを通じ、複数のユーザー事例に触れた住商情報システムの内野靖之氏は「海外の事例に触れて感じたのは、日本企業はPDCAサイクルのうちPlanとDoは得意だが、Checkそして特にActionが苦手だったのではないか。そこを解決することで、より良い導入効果を得られるのでは、ということ」と話す。同時に「どのユーザーも、サービスマネジメントについてはスモールスタートを重視していた。自分自身、ターゲットプロジェクトを見つけて小さく始めることを心がけており、その手法に確信がもてた」という。

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