Windows Azure推進ベンダーの最新事情Weekly Memo

富士通が先週、Windows Azure関連事業で新たな展開を発表した。だが、MicrosoftのAzureパートナーでは同じ立場のHPやDellの動きが伝わってこない。嵐の前の静けさか……。

» 2011年08月01日 07時45分 公開
[松岡功,ITmedia]

クラウドサービスは「普及」から「差別化」へ

 IDC Japanが7月26日、今年5月に実施したユーザー動向調査「国内クラウド市場調査2011年」の結果を発表した。それによると、パブリッククラウドを「良く理解している」「概ね理解している」企業は全体の約4割だった。

 また、この2つの回答に「なんとなく分かる」を加えた、パブリッククラウドを認知している企業のサービス別利用率は、SaaSが23.6%、PaaS/IaaSが13.8%だった。IDC Japanによると、昨年実施した同様の調査結果と比較すると、1年間で認知度および利用率が大幅に上昇したという。

 国内企業のパブリッククラウドに対する印象は、セキュリティに対する懸念を除くと、肯定的な意見が多くなっているという。中でもコストや迅速性、拡張性に対する評価が向上。これらは、クラウド事業者が利点として訴求している内容と一致しており、企業がその優位性を評価していることが分かるとしている。

 IDC Japanによると、国内SaaS市場は昨年、「認知度の普及」から「ベンダー間の差別化」へとベンダーの課題が変わったという。同様に国内PaaS/IaaS市場でも今年、「普及」から「差別化」へと課題が変わると予測している。

 パブリッククラウドに関する国内市場の動向が先週、IDC Japanから発表されたので、少し長くなったが前段として紹介させてもらった。

 今回は、そのパブリッククラウドの中でもPaaS市場の今後の動向に大きな影響を与えるとみられる米Microsoftの「Windows Azure Platform」(以下、Windows Azure)をめぐる動きに注目したい。

 この話題については、本コラムでもたびたび取り上げているが、最大の注目点は、MicrosoftがWindows Azureにおいて富士通、米Hewlett-Packard(HP)、米Dellと戦略的提携を結び、同プラットフォームを運用できるシステム基盤を開発するとともに、3社のデータセンターからそのシステムを活用したクラウドサービスを提供できるようにしたことだ。

 言い換えれば、Windows Azureを活用したクラウドサービスを自社のデータセンターから提供できるのは、Microsoftを除いて現時点で富士通、HP、Dellしかない。

富士通がWindows Azure関連事業を積極展開

 その中でも、MicrosoftはHPやDellに先行して、富士通との協業サービス展開を6月7日に発表。両社の緊密ぶりが目立った。

 さらに富士通は7月29日、Windows Azureに対応したミドルウェア製品を開発し、同日よりグローバルで販売すると発表した。JavaやCOBOLの実行環境や、オンプレミスとクラウド間の一元管理機能などを提供するという。

 従来、Windows Azureで展開されるアプリケーションは、Visual C#やVisual Basic .NETを開発言語として用いるのが一般的だが、企業の基幹システムではJavaとCOBOLの利用が約4割を占めており、基幹システムをWindows Azure上で稼働させる企業はまだ少ないという。

 そこで、富士通ではWindows Azure上でのJavaとCOBOLのアプリケーション実行環境を提供し、オンプレミスのシステムで利用しているJavaとCOBOLのアプリケーションを、Windows Azure上へ容易に移行できるようにした。

 新製品の内容については関連記事等を参照いただくとして、この富士通の発表の意義を、同発表にコメントを寄せたMicrosoftサーバ&クラウド事業部門コーポレート バイスプレジデントのビル・レイング氏が端的にこう説明している。

 「富士通が提供するミドルウェアによって、エンタープライズユーザーはWindows Azure PlatformおよびFujitsu Global Cloud Platform FGCP/A5 Powered by Windows Azureの両方において、アプリケーションをより簡単に管理できるようになる。富士通はWindows Azure Platformに大きな価値をもたらす」

 こうした富士通の積極的な取り組みに対し、HPとDellからは今のところ、Windows Azure関連事業で新たな動きを始めたという話は聞こえてこない。

 折しも富士通の発表と同じ7月29日、Dellのエンタープライズ事業部門の幹部が来日会見を行い、クラウド事業についても言及した。

来日会見した米Dellの幹部。右からエンタープライズ・ソリューション ストラテジー&テクノロジー バイスプレジデントのプラビーン・アシュタナ氏、公共・ラージエンタープライズ事業エンタープライズ・ソリューション部門バイスプレジデント兼ジェネラル・マネージャーのドナ・トロイ氏 来日会見した米Dellの幹部。右からエンタープライズ・ソリューション ストラテジー&テクノロジー バイスプレジデントのプラビーン・アシュタナ氏、公共・ラージエンタープライズ事業エンタープライズ・ソリューション部門バイスプレジデント兼ジェネラル・マネージャーのドナ・トロイ氏

 Dellエンタープライズ・ソリューション ストラテジー&テクノロジー バイスプレジデントのプラビーン・アシュタナ氏は、「Dellは5年ほど前から多くのクラウド事業者に対してインフラを提供してきた。今後もさまざまなパートナーと連携しながら、クラウドサービスを強化していく計画だ」と語り、全世界に点在するデータセンターのうち10拠点をクラウドサービスの受け皿にしていく考えを示した。

 だが、Windows Azure関連事業については、「さまざまなパートナー」の1つにMicrosoftの名を挙げただけで詳しい説明はなかった。

 MicrosoftのWindows Azure戦略は、クラウドサービスにおけるデータの在り方を根本から変えるものだ。それに伴って、流通の仕組みも大きく変わっていく可能性がある。

 果たしてHPやDellは、Windows Azureに対してどのような事業展開を図ろうとしているのか。その意味では、今は嵐の前の静けさかもしれない。

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