あなたは自分がボトルネックであることを認められるか【後編】チームワークが経営を変えた!(2/2 ページ)

» 2012年04月17日 08時00分 公開
[北原康富,サイボウズ株式会社]
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組織改革と効果

 8月のワークショップから1カ月後、東京支店の営業担当者を交えて、前回作成したアクションプランが現場視点から適切であるかどうかを確認する集まりを持った。現場の意見から、豆担当者が日報を関係部署、社員に共有するのはどうか、との意見があった。A氏のノウハウの伝承、各支店と各人の動きを、グループウェア「サイボウズOffice」上の日報を通して把握するとともに、豆販売に関してはチームとして動き一体感を醸成していくことが、アクションプランに加わった。これらのアクションプランが10月から現場で実行されることとなった。

 筆者らが岡田氏とコンタクトを取ったのは、2011年の暮れであった。年末の挨拶もかねて、その後の進ちょくを伺うために連絡を取ったところ、前編冒頭の「会社が変わりました」という言葉を聞くことになる。指示命令系統を修正し、日報を共有した取り組みによって、4つの効果が出ていると岡田氏は教えてくれた。

(1)豆担当者制にしたことで情報が得やすく、判断が早まり、営業担当者の負担が減った。

(2)営業の動きを各支店長が認識できるようになり、豆販売に関する支店長と豆担当者との2人体制ができてきた。

(3)日報の共有により、各支店の情報、販売の動きが分かるようになった。

(4)ノウハウの移行により、営業社員のスキルアップ、底上げとなっている。

 筆者らは、仕事がなくなるかもしれないとつぶやいたA氏のことが気掛りだった。そのとき、岡田氏が「仕入担当のA氏が、またワークショップをやりたいと言っているんですよ」というのだ。A氏は、仕事がなくなるどころか、現場の豆担当者に情報やノウハウが移動するにつれ、仕入部にやって来る相談や問題のレベルが上がっており、以前よりも戦略的な判断に時間を使えるようになったという。この効果をさらに広げるため、全国の豆販売に関する社員を集めて、メリット、デメリットを共有し、さらなる改善を図りたいとA氏自ら提案しているというのだ。

ワークショップがチームにもたらしたもの

 筆者は、これまでのかね善の取り組みを振り返り、組織やチームの変革にとって重要な2つのポイントを見た。一言でいうとそれは、「情報の民主的共有」と「自発的改革」である。

 以前の連載コラムで、チームとは民主的な都市国家のようなものだと例えた。チームに属すメンバーが、チームの目標や情報を共有したうえで、ほかのメンバーと対等な関係を持ち、互いに強調しながら自分の役割を遂行する。このようにチームは本来メンバーが対等な関係であるが、そうでなければチームではないということではなく、階層構造を持った職能組織との間で、さまざまな中間状態がある。かね善をチームとしてみると、農産仕入部−支店という職能組織を持つ。今回のワークショップで、豆取引の情報やノウハウを長年閉じ込めてきた仕入部の扉が開き、支店がそれらを共有できるようになった。

 組織で多くの情報を全員に公開しても、なかなか業務改革には結び付かない例が見られる。一方で、かね善の事例では、共有された情報がきわめて効果的に、新しい仕事のやり方につながっている。この違いを筆者は、情報の民主的共有と表現したい。すなわち、職能組織における指揮命令系統は、現場の判断を極力少なくし、判断や決定は、専門の組織に回して行うように意図されている。このような状態で、職能と無関係な情報を共有することは、無意味ではないが、業務の改革に直接つながる可能性は低い。かね善が、支店に豆担当者を置いて、仕入部に集中していた業務そのものを協調作業とし、民主的チームに一歩足を踏み出したからこそ、共有された情報が、効果的に業務に結び付いたのではないだろうか。

 次の自発的改革である。ワークショップの途中でA氏自らが、自分の仕事を変え、一部を支店に委ねようと発言したことが象徴的である。人が行動を変える動機を引き起こす要因に、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」がある。前者は、褒賞や罰、命令など、行動する人の外側から与えられるものであり、後者は、自分自身の意思や感情によって発生するものである。

 研究によると、外発的動機は、その要因が取り除かれた瞬間に失われるが、内発的動機はそのようなことがなく継続する。今回かね善で起きた改革は、経営者である岡田氏が、カリスマ的リーダーシップを用いて強権命令を下したものではない。むしろ岡田氏が会社全体で感じている問題意識を、現場の人たちに考えてもらうプロセスを提供した。そのプロセスを通じて、A氏自らが自分の仕事を変えようと動機付けられたものだ。

 仕事を変えることは、ある意味リスクである。A氏が、そのリスクを取ってでも現状を変えようとした動機は貴重である。また、このような自発的改革を促した、岡田氏によるコーチ的リーダーシップが大きな役割を果たしたことも注目に値する。

 今回の事例は、筆者にとっても非常に学びが多く、まさに「チームワーク」の変化を目の当たりにできたものであった。本稿では、A氏に焦点を当てて業務変革の流れを見てきたが、ワークショップを含めた一連のプロセスの中で、そのほかの参加者からも多くの気付きや示唆があったことを最後に添えたい。

著者プロフィール

北原康富(きたはら やすとみ)

サイボウズ株式会社 シニアフェロー

名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 教授



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