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» 2012年11月21日 08時00分 UPDATE

成功するITマネージャーの「人づきあい術」:人はなぜ「あいさつ」をするのか? 人間関係づくりの盲点

人は小さい時から「あいさつ」をするようにしつけをされる。なぜ、あいさつをするのだろうか。職場での良好な人間関係づくりにおけるこの理由を解説する。

[青木裕,ITmedia]

 今回は職場における人間関係づくりで、簡単なのに見落とされていることについて解説する。まずは次の質問について考えていただきたい。

部下から「あいさつ」はなぜ必要なのかと尋ねられたら、あなたは何と答えますか?

 小さい頃は、親や学校の先生から「あいさつをするように」というしつけを受ける。会社に入っても、上司や先輩などから「あいさつ」をすることをビジネスマナーの一環として学ぶ。「あいさつ運動」「オアシス(おはようございます、ありがとうございます、失礼します、すみません)運動」という活動として職場で推進されることもある。

 とはいえ、「あいさつ」をする理由について教わることはあまりない。少なくとも、弊社の研修を受講される方に「あいさつ」はなぜ必要なのかと尋ねても、明快に答えられる方は、そう多くはない。つまり、何となく感覚的な理由であいさつをしているのである。これでは、ロジックが明快でないと動かないIT技術者が多い職場で、あいさつを根付かせるのはなかなか難しいのではないだろうか。

 実はあいさつが必要な次の理由(ロジック)が、今回のコラムのテーマである。

マズローの欲求5段階

 あいさつが必要な理由は、端的にいうと心理学者であるアブラハム・マズローが提唱している「欲求5段階」の中の「承認欲求」(下図参照)を満たすためである。

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 欲求5段階とは、人の欲求は5つあり、下位の欲求が満たされないと上位の欲求を満たそうとは思わないというものである。つまり、生活していけるだけの給料を稼ぐこともままならなければ(=生理的欲求が満たされていなければ)、安定して会社に勤めていたい(=安全と安定の欲求を満たしたい)とは思わないというものである。自己実現をしたいと思う状態に達するためには、下位の4つの欲求が満たされていることが必要になるという考え方である。

 ここで最上位の欲求である自己実現、つまり、個人として成長していきたいという思いにつながらなくしてしまう問題が「承認欲求」への不満である。

 現在、業種を問わず多くの日本企業はこれまで築き上げてきたビジネスモデルを大きく転換しようとしている。マズローが提唱している欲求5段階に照らすと「安全・安定の欲求」が脅かされている状態だ。大手電機メーカーのように、赤字でリストラを繰り返すところまで悪化してしまうと、「生理的欲求」(生きたいという欲求)にまで落ちてしまったということになる。

 企業(=経営層の感覚)がどの欲求レベルにあるのかによって、企業が取る施策は変わる。社員を大事にしない(=欲求レベルの「所属」や「承認」が無視されている)と感じているならば、経営者としては下位の「生理的欲求」「安全と安定」から抜け出そうと奮闘しているはずだ。

 ITマネージャーはこの認識を理解しておくと、部下との関わり方に役立つ。つまり、「生理的欲求」「安全と安定」のステージにいる企業では「所属」「承認」の欲求不満につながる活動がますます増えていく。第2回で解説した「成功循環モデル」に照らすと「結果の質」から入ることが増え、バッドサイクルに陥る可能性が極めて高くなる。

 「所属」、つまり雇用するか、しないかに関してITマネージャーができることは限られるが、「承認」欲求を満たすためにできることはたくさんある。「承認」はテクニック(スキル)である。

承認欲求を満たすための2種類の「承認」

 それでは「承認」の目的とは何か。「承認」とは、相手に自信を持たせ、自発的な成長を促すという目的で行う行動である。承認には、相手の「行動」に対して行うもの(行動承認)と相手の「存在」について行うもの(存在承認)の2種類がある。

 行動承認は、相手が起こした行動に対して何かを伝える行動である。一方の存在承認は、相手がそこにいるという存在自体を認めることを伝える行動である。具体的な方が分かりやすいので、ここに一部を紹介する。

行動承認の例

ほめる、叱る、評価する、表彰する、ねぎらう、お礼を言う、謝罪をする、アドバイスをする、フィードバックをする


 どうだろう、普段の行動の中に「行動承認」に該当することは幾つあっただろうか。これらは、指示した内容を実施してもらったタイミングなどで実施しやすいはずだ。ただ、「部下が指示通りの仕事をして当たり前だ」という認識を持っているとできないかもしれない。ITマネージャーとして「行動承認」は、部下の行動に対する「対価」のつもりで必ず実施してはどうだろう。

 一方で、大したことではないと職場で軽視される傾向が強いのが存在承認である。

存在承認の例

あいさつをする、名前を呼ぶ、変化に気づく、声をかける、目を合わせる、役割を与える、共感する、家族・誕生日・趣味などを覚えている、相談する


 上記の例を見ていただけばお分かりの通り、行動承認よりもさらに簡単にできることで、コストもかからない。しかし、これを積み重ねると大きな効果を生むのだ。ただ、継続しないと効果は得られない。

 「声を出すのが恥ずかしい」「忙しい中で声を掛けたら迷惑がられるかもしれない」「相手から反応がなかったら怖い」「忙しいので、すぐに業務をこなすための話をしたい」など、存在承認の行動へ移るまでに、照れ、遠慮、不安、面倒くささなどがあるかもしれない。

 しかし、マズローの図をもう一度みてほしい。「自己実現=成長したい」とメンバーが思うためには、承認欲求が満たされている必要がある。

 ITマネージャー自身が抱えている業務が多いことを承知の上で申し上げれば、部下に成長を求めるなら、種類は問わず、かなり意識して「承認」する数を増やす必要がある。何しろ結果が出にくい状況である。誰しもが結果を出せて、自然と組織の中で周りから認められるような環境ではない。

 またITの仕事は、100%仕様通りできて当たり前、止まることなく運用できて当たり前という減点主義になりがちである。社内の他部署や顧客から褒められたり、感謝されたりすることが仕事柄、極端に少ないと筆者は感じている。

 ITマネージャーとしては、少なくとも自分の統括する組織やプロジェクトのメンバーだけは意図的に「承認」して、少しでも承認欲求を満たし、メンバーが「自己実現」を目指すような関わり方がますます必要になるのではないだろうか。

 チームで動くITプロジェクトにおいては、脱落者が出れば個々にかかる負荷がさらに高くなり、さらなる脱落者が出てしまう危険性がある。「存在承認」であれば、仕事ができるかどうかというメンバー個人の資質には関係なく実施できるはずだ。

 「あいさつをする」「1日1回名前で呼ぶ」「メンバーの誕生日会を開く」など、できることから始めてほしいというのが筆者の切なる願いである。成果志向のITマネージャーの方から「そんなことは大したことではない」という発言を聞くたびに、「大したことではない=人の感情」にある基本的なことがおろそかになってしまっている怖さを感じるのである。

 次回はプロジェクトの一体感を高める「価値観」について解説する。

執筆者プロフィール

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青木裕(あおき ゆう)、ビジネスコーチ株式会社執行役員 ビジネスコーチ アジア 取締役。SIerにてプロジェクト運営にコーチングを導入。常駐先で運営手法が評価を得て、コーチング研修を実施。2006年、ビジネスコーチ株式会社に参画。2010年より現職。本連載記事を再編集した電子書籍「成功するITマネージャーの『人づきあい術』」が主要電子書店で入手可能です。


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