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» 2012年11月22日 18時45分 UPDATE

SFC ORF 2012 Report:医療情報は誰のもの? 有識者たちが語る理想社会

今年のSFC ORFでは、情報社会における医療や健康についてのパネルディスカッションが行われた。神奈川県が現在取り組む「マイカルテ」の狙いなどが紹介された。

[伏見学,ITmedia]

 慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)の教員や学生が日ごろの研究成果などを対外的に発表する年次イベント「SFC Open Research Forum 2012」が11月22日、23日の日程で開催中だ。

 初日の午前には「ライフクラウドの時代がやってくる 〜個人の健康情報を利用する情報社会基盤〜」と題したオープニングセッションが行われた。慶應義塾大学 環境情報学部教授の村井純氏の司会のもと、神奈川県知事の黒岩祐治氏、一橋大学名誉教授の堀部政男氏、慶應義塾大学 医学部教授の坪田一男氏が、情報社会における医療や健康のあり方について議論を深めた。

左から慶應義塾大学・村井純氏、一橋大学名誉教授・堀部政男氏、神奈川県知事・黒岩祐治氏、慶應義塾大学・坪田一男氏 左から慶應義塾大学・村井純氏、一橋大学名誉教授・堀部政男氏、神奈川県知事・黒岩祐治氏、慶應義塾大学・坪田一男氏

マイカルテとは

 「医療情報は原則としてその人自身のもの。しかしながら、それらの情報は病院や医療機関に存在する。本来ならばこうした状況はおかしいはずだ」。こう話すのは坪田氏。本人の医療情報は病院の窓口に問い合わせれば閲覧できるが、そのために書類などを提出する必要があり、煩わしさを感じてしまう人は少なくないという。坪田氏は「医療情報が本人のものになり、簡単に情報へアクセスでき、経時的にデータを保管するような環境の整備が必要だ」と強調する。

 そうした中、神奈川県が取り組んでいるのが「マイカルテ」の導入である。マイカルテとは、医療機関におけるカルテや検査結果、処方薬などのEHR(Electronic Health Record:電子健康記録)と、医療機関以外で発生する血圧や体重などの測定情報、あるいは食事、運動、睡眠などのPHR(Personal Health Record:個人健康記録)を個人が管理、活用するというもので、生活の質的向上や医療の効率化につながる情報社会基盤として注目を集めている。利用イメージとしては、個々人のモバイル端末などにデジタルデータでカルテ情報を入れておき、診察する際に医師に見せるというものだ。

 マイカルテは今後さらに深刻さを増す日本の高齢化社会においても有効な手段になるという。黒岩氏は「マイカルテ、すなわち、ICT(情報通信技術)を用いた診療情報の利活用によって、効率的な医療が行われているかどうかの検証が可能になる。高齢者はさまざまな病気を抱えていて、それぞれ治療方法が異なる。今までの診療情報がないと薬を選ぶ際にも無駄が生じ、個人の負担額が膨らんでいくばかりだ」と述べる。

 では、神奈川県はどのようにマイカルテを実現するのか。まずは「お薬手帳」の電子化からスタートする考えだ。「今までにどのような薬を処方していたかという情報がすぐに取り出せれば、たとえ初診であっても医師は患者について多くの情報を得ることができる」と黒岩氏は説明する。

病気を未然に防ぐためのデータ活用

 また、マイカルテに記載する情報として、上述した個人の健康記録も大きな価値があるという。坪田氏は「現在の医療情報は病気の診断に用いられる結果情報からのアプローチに過ぎない。ヘルス情報を定常的に取得し、健康状態を把握することは予防医療の観点で重要だ」と力を込める。例えば、10年前の詳細なヘルス情報にアクセスするのはほぼ不可能だが、仮にデータが残っていれば個人としても、社会にとっても大きな価値を生むだろう。病気になる過程の分析ができたり、エクササイズの面でも役に立つという。

 一方で、こうした取り組みにおいて無視できないのが、プライバシーや個人情報保護の視点である。日本におけるプライバシー研究の第一人者である堀部氏は、厚生労働省が主導する、医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備や、神奈川県のマイカルテ検討委員会などに参画し、日夜議論を交わしているという。「個人情報保護とデータ活用の両立が課題となっている。実現に向けて、法的整備や環境整備が必要になってくる」と堀部氏は話す。

 個人情報保護に関して、堀部氏は以前から政府などから独立した第三者機関の設立を提言している。「医療情報の活用を考えたとき、地方自治体は今まで個人情報保護について審議会や審査会で対応していたが、今後は第三者機関が対応していくべきだ。個人や医療関係者が自由にデータを利用できる上で第三者機関の役割は大きい」と意気込んだ。

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