被災地でのICT教育は雇用を生んだか 「一定の成果見えた」とマイクロソフト

東日本大震災の被災者のICTスキル向上と就労支援を目指し2012年1月にスタートした「東北UPプロジェクト」の成果を、日本マイクロソフトが報告した。

» 2013年03月14日 15時59分 公開
[本宮学,ITmedia]

 日本マイクロソフトは3月14日、東日本大震災で被災した人々のICTスキル向上と就労支援を目的に2012年1月から実施してきた「東北UPプロジェクト」の成果を報告した。これまでの1年2カ月で300回の「就労支援講座」を実施し、851人が講座を修了。求職中だった受講者426人のうち45%に当たる193人が就職したという。

 同プロジェクトは、岩手県、宮城県、福島県の現地NPOなどとマイクロソフトが連携し、被災者のICTスキル向上を目指すというもの。マイクロソフトはWindows 7やOffice 2010、Office 365といったソフトウェア製品の提供や、講習カリキュラムとテキストの開発、実際に講習を行うNPO向けの講師養成研修などを担当している。

photo 日本マイクロソフトの牧野氏

 これまで3回実施した講師養成講座では、17人の講師が誕生。就労支援講座の修了人数も目標としていた500人を上回り、そのうち求職中だった人の新規就労率も目標の30%を上回った。「一定の成果は見えた」と日本マイクロソフトの牧野益巳氏(業務執行役員 社長室長 シチズンシップリード)は話す。

 実際に講習を行う現地NPOも手ごたえを感じている。津波の被害を受けた岩手県釜石市で被災者向けICT講習を手がける「@リアスNPOサポートセンター」の鹿野順一 代表理事は、活動を通じて「本気でPCのスキルを伸ばしたいという人が増えてきた」と話す。同団体では4日間にかけて講習を行うパッケージプランを提供しており、今では「応募の電話が毎日かかってくる。キャンセル待ちが続いている状況」という。

photo 釜石市でのICT講座の様子

 ICT教育は@リアスNPOサポートセンターのほか「岩手NPO−NETサポート」(岩手県大船渡市)、「SAVE TAKATA」(岩手県陸前高田市)、「BHNテレコム支援協議会」(宮城県石巻市)、「寺子屋方丈舎」(福島県会津若松市)、「福島インドアパーク」(福島県郡山市)、「東雲の会」(東京都江東区への避難者向け)が実施している。マイクロソフト主催の東北UPプロジェクトは3月末で終了するが、今後も各NPOが被災者向けICT講座を続ける予定だ。

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 マイクロソフトは今後、「地域経済の活性化」「地域コミュニティーの再生」「将来の災害への備え」の3本柱で被災地を支援していく。地域経済の活性化では、5月に仙台市で第1回フォーラムを開催するほか、将来の災害への備えでは、災害で自治体のWebサイトがダウンした際にミラーリングサイトを立ち上げる「災害BCP協定」を各自治体と結んでいくとしている。

「ICTスキルは就業を目指す人にとって必須ではないが……」

 「被災地にPCスキルを必要とする仕事がどれだけあるかは難しい問題」と鹿野さんは話す。例えば水産加工業など、直接的には雇用者のICTスキルを必要としない業種も東北3県には少なくない。だが「受講者へのアンケート結果を見ると『今後のキャリアアップやスキルアップに役立つ』などポジティブな声が多く聞かれる」(鹿野さん)という。

photo @リアスNPOサポートセンターの鹿野代表理事

 実際、コンサルティング会社のビズデザインが行った第三者評価によると、講座受講者の81%は新たな講習に参加する意欲が向上したほか、44%は講習をきっかけに新たな友人ができた。また、受講時に無業だった人の28%は受講後2カ月以内に就業支援サービスを受け、61%はハローワークなどで就職相談を行い、16%は就職が決定したという。

 「被災地での就労率を上げる方法は、業種をはじめさまざまな要素が複雑に絡むため一概には言えない。ICTスキルは就業を目指す人にとって必須ではないが、現地企業によっては『ICTスキルは持っていて当たり前』という考えも見受けられる。被災者の就職活動に当たっては、ICTスキルがないよりはあった方が企業の印象がよくなるはずだ」と鹿野さんは話している。

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