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» 2013年03月28日 08時00分 UPDATE

情シス部門よ、ビッグデータ分析を武器に飛躍を【後編】

多くの企業がビッグデータ活用によるマーケティング施策の強化を望む中、情報システム部門はどのような貢献ができるのだろうか。

[生熊清司(ITR),ITmedia]

重要となるビッグデータアナリティクス

 前回は、企業の情報システム部門が置かれている現状について説明した。本稿では、企業経営に貢献するため、具体的に情報システム部門が取り組むべきことを議論していく。

 ITRが2013年2月に情報システム部門を中心に実施したビッグデータに関するアンケート調査では、ビッグデータの活用が考えられる業務領域として、1位が「マーケティング」となっている(図1)。これは、多くの企業の情報システム部門が、マーケティング方式の主流が従来の製品を中心に据えたマスマーケティングから個々の顧客を中心に据えたOne to Oneマーケティングに移行しつつあることを感じているとともに、One to Oneでは顧客ごとの動向を知るために、より多くのデータに対する分析結果を基にしたアクションが必要となることを理解しているからであろう。

図1 ビッグデータの活用を考える業務領域(出典:ITR) 図1 ビッグデータの活用を考える業務領域(出典:ITR)

 さらに、この調査では、ビッグデータの活用を推進させる役割を担う部署を聞いている。結果は、情報システム部門が48%で最も高い割合を占めている。これらの結果から情報システム部門が自らビッグデータ活用の中心的な役割を担い、マーケティングを支援することで、「売上増大への直接的貢献」というIT戦略課題に対応しようとしていることがうかがえる(図2)

 しかし、ビッグデータに対して、大量のデータを収集/蓄積するデータ管理技術を中心とした「管理部分」への取り組みだけでは、この思惑は達成できない。情報システム部門がビッグデータ活用の中心的な役割を担うには、収集/蓄積したデータをいかに利用するかという「活用部分」を考えなければならない。

図2 ビッグデータの活用を推進させる、適切な担当部署や組織(出典:ITR) 図2 ビッグデータの活用を推進させる、適切な担当部署や組織(出典:ITR)

 データ自体を商品としている商用データ提供サービス企業などを除けば、ほとんどの企業にとってデータは意思決定に役に立てるための資源である。「データは使ってこそ価値を生む」ものであるからだ。現時点でベンダーが公開しているビッグデータに関する事例を見ると、その多くはビッグデータの技術を利用して、従来のシステムにおけるデータ処理を高速化したものが多く、残念ながら真の意味でのビッグデータ活用の事例はごく少数である。従って、情報システム部門は、データ分析力をいかに高めるかを考えなければならない。

 では、昨今話題となっている「データサイエンティスト」を部門に雇い入れれば良いのであろうか。現時点でデータサイエンティストという職務は、明確な定義が確立していないが、米国のGoogle、Facebook、Twitter、Amazon、さらに国内での楽天、グリーやディー・エヌ・エーなどのWebサービス企業だけでなく、米Wal-Mart Storesなどの大手小売業や米Bank of Americaなどの銀行においては、既にデータサイエンティストの求人を行っている。

 これらの企業がデータサイエンティストに対して共通で求めているのは、RDBMSやHadoopなどのデータソースに対する操作スキル、PHPなどのスクリプト言語やJavaでのプログラミングスキル、RやSASなどの分析ツールを利用した統計解析のスキルである。これらの技術スキルを見ると、情報システム部門はデータサイエンティストに近い人材を抱えている可能性を感じる。

 しかし、実際の求人では、技術的なスキルだけでなく、業種に応じたマーケティングやサプライチェーンなどの専門知識も要求され、さらにコミュニケーションとプレゼンテーション能力、リーダーシップも要求されている。求人内容から考えると、データサイエンティストは単なるエンジニアではなく、予測モデルを基に実際のビジネス施策を構築し、社内の関係者と協力して施策を実現できる、エンジニアとマーケティングの両方のスキルが必要である。このマーケティングや業務に関する知識が必要となると、情報システム部門で適した人材を見つけることが難しくなる。

 部外や社外から新たに雇い入れば良いのではないかと考えても、適任者を見つけることは難しいであろう。国内に比べ多くの人材が存在すると思われる米国でさえ、データサイエンティストまたはそれに近いスキルを持った人材を見つけることは困難な状況である。2012年に米McKinsey Global Instituteが発表したレポートによると、米国では2018年までに、高度なアナリティクススキルを持つ人材が14万人から19万人不足し、大規模なデータセットのアナリティクスを活用して有効な決定を下すことのできるマネジャーやアナリストが150万人不足すると予測している。既にデータサイエンティストの争奪戦が始まっているからである。

情報システム部門とマーケティング部門から人材を選抜

 このように人材の確保が難しい状況で、どのようにして分析力を高めていけばよいのであろうか。ここで、1つの参考事例としてリクルートの取り組みを紹介する。

 リクルートでは、2012年10月に7つの事業会社、3つの機能会社を統括するホールディング制に移行し、機能会社であるリクルートテクノロジーズが横断的に全社のIT関連業務を担っている。リクルートでは2008年から分析を強化する取り組みを開始し、現在ではリクルートテクノロジーズ内のビッグデータグループという専門の部署が、Hadoopなどを利用して、先進的なデータ分析を行っている。

 しかし、同社でもデータサイエンティストのようなスキルを全て持つ人材を確保することは難しい状況にある。そこで、同社では、エンジニア型データアナリストとコンサル型データアナリストに職務を分けて人材を確保し、そこにそれぞれの事業会社のマーケッターを加えてチームを構築することで対応している。

 つまり、最初は情報システム部門の人材とユーザー部門のマーケティングスキルを持った人材を集め、必要となるスキルセットを保有したチームを構築するのである。これによって、情報システム部門は部外の人材が持つマーケティングスキルや業務知識を吸収する可能性が生まれる。しかし、ユーザー部門のスキルを持った人材を参加させることが難しい場合もあろう。その場合は、実験的なプロジェクトとして小規模で始め、データ分析による成果を見せることで、ユーザー部門側の賛同を得るというステップを踏む必要がある。

 ビッグデータアナリティクスは、情報システム部門の組織ミッションを拡張させるための1つの重要な方向性と言えるが、実際は、能動的にユーザー部門に働きかけ、足りないスキルを補完することは容易ではなく、情報システム部門全体が大きな意識改革を行うことが求められる。現状のまま放置すれば、存在価値が落ちてしまう可能性があることを念頭に置いて、組織ミッションを再検討することを始めるべきである。

著者プロフィール

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生熊清司(いくま せいじ)

株式会社アイ・ティ・アール(ITR) リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリスト

大手外資系ソフトウェアベンダーにてRDBMS、データウェアハウス関連製品のマーケティングを担当した後、コーポレート・マーケティング部門の責任者、アナリスト・リレーション部門の日本代表などを歴任。2006年より現職。現在は、RDBMS、NoSQL、DWH、BIなどのデータ管理と活用に関する製品分野を担当し、ITベンダーのマーケティング戦略立案やユーザー企業の製品活用などのコンサルティングに数多く携わっている。IT専門雑誌への寄稿、セミナーなどでの講演多数。


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