「平均値」時代の終えん、成否のカギは「個」客価値、とIBMのロメッティCEO

日本IBMは都内のホテルで「THINK Forum Japan 2013」を開催し、日本企業こそテクノロジーの活用で世界をリードすべきだとした。来日したジニー・ロメッティCEOは、「もはや平均値の時代は終わりを告げた」と話し、「個」客価値の創造がビジネスの成否をカギを握るとした。

» 2013年10月08日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 日本アイ・ビー・エムは10月7日、都内のホテルで「THINK Forum Japan 2013」を開催し、360社を超える顧客企業のトップらにテクノロジーの重要性を訴えた。ホスト役を務めたマーティン・イェッター社長は、「ビッグデータの活用が勝敗を分ける時代。日本企業こそテクノロジーの活用で世界をリードすべきだ」と話した。

IBMのジニー・ロメッティCEO

 同社はこの日、世界の企業経営層約4200人を対象にした調査「“個”客価値の共創」(The Customer-activated Enterprise)を発表、「顧客の影響力を受け入れ、経営に生かす」「デジタルと実世界を統合する」、そして「顧客体験をより良いものにする」ことが企業にとって今後の成功要因になるとしている。

 約630人の経営層が調査に協力した日本企業について見ると、全体を20ポイント以上も上回る76%が「顧客の影響力は大きい」と回答しながらも、「デジタルと実世界の統合」については半数以上の企業がデジタル戦略を描いていない。顧客中心で事業戦略を立案する重要性は認めながらも、彼らが望むオムニチャネルの実現(デジタルと実世界に分断している顧客接点の統合)や顧客体験をより良いものにする取り組みでは出遅れている日本企業の姿が浮き彫りになった。

 「今後、企業におけるほとんどの意思決定はビッグデータ分析から得られた洞察に基づいて行われ、生み出される製品やサービスにも情報が組み込まれて差別化され、届けられる価値もマスやセグメントではなく、個に対応したものになる。もはや平均値の時代は終わりを告げた」と話すのは、THINK Forumのために来日したジニー・ロメッティCEOだ。

 ロメッティCEOは、今後企業が進むべき方向性についても言及、ノーベル経済学者のロナルド・コース氏が戦前、取引コスト低減が企業の存在意義としたことを紹介しながら、「情報は21世紀の天然資源といわれている。しかも、無尽蔵だ。だれでも手に入れ、加工することでビジネスを活性化できる。企業の存在意義は効率化だけではない。新たな姿が描かれるべきだ」と話した。

 ロメッティ氏は、ネットワーク化されフラットになったこの時代にあっても、将来にわたって企業が必要とされるための条件、その存在意義として以下の3つを挙げる。

  1. 専門性の拠点であること
  2. より高い付加価値を生み出す組織であること
  3. 顧客や社会に対して信頼を醸成する組織であること

 これらを企業はアウトソースすることはできないし、逆にこれらを満たせなければ、企業としての存在意義を失う。

 「単なる調整ではなく、情報を活用して価値を創造することが企業の使命になる」とロメッティ氏。

パナソニックと損保ジャパンのトップが競争優位を議論

 今年のTHINK Forumでは、パネルディスカッションのパネリストとして、パナソニックの津賀一宏社長と損害保険ジャパンの櫻田謙悟社長が登場し、競争優位について議論した。

 「家電の売り上げ比率は25%に過ぎないが、われわれのDNAはそこにある。人々の暮らしに役立つものをつくることが使命」と話すのは、総合家電メーカー最大手、パナソニックの改革に昨年から挑む津賀社長。

 「レンジもコモディティーになったと思ったらそれで終わる。スチームオープンレンジには温度や重量などのセンサーを組み込み、自動で調理してくれるメニューも増やしている。まだ、ウナギの蒲焼が選べないのは残念だが(笑い)」と津賀氏。

 白物家電は生活者が求めている本質的な機能を提供する製品だ。

 「レンジが家庭で食を美味しく食べるための機能を提供するものだとすれば、加工食品の流通の中でどのように位置づけられ、どのような機能が盛り込められればいいのか、追求していきたい」と津賀氏は意欲を見せる。

 来秋の日本興亜損保との合併を進める損保ジャパンの櫻田社長も「1998年に自動車保険が自由化されたが、ニーズのない特約ばかりが増え、安心・安全に資する本質的なサービスは置き去りにされてきた」と振り返る。

 「クルマの台数が増えない中、顧客の視点で、顧客が求めている価値を提供できる“人”が大切になる。顧客は安心・安全でありたいと願っているとすれば、例えば、介護サービスをきっかけに保険に加入したいと考える顧客もいるはずだ」と櫻田氏。

 日本企業は、痒いところにも手が届く製品やサービスを得意としてきた。ロメッティ氏は、「情報を組み込むことで、日本企業が歴史の中で培ってきた優れた製品やサービスをさらに“個”客価値の高いものにすることができる」と話した。

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