ビッグデータで社会をあっと言わせるサービスを リクルートテクノロジーズ・泉さん情シスの横顔

月間で数十億レコードという大量データを生成するリクルートは、ビッグデータの専門組織を立ち上げ、ビジネス成果を生み出すためのデータ活用基盤を構築。そのプロジェクトを率いる泉さんが考える未来像とは――。

» 2014年01月07日 08時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

企業のIT部門で活躍する方々を追ったインタービュー連載「情シスの横顔」のバックナンバー

 2012年10月1日にホールディングカンパニーとなったリクルート。時を同じくして全社横断の組織として立ち上がったのが「ビッグデータグループ」だ。

リクルートテクノロジーズ ITソリューション部 インフラソリューション6グループ グループマネジャーの泉晃さん リクルートテクノロジーズ ITソリューション部 インフラソリューション6グループ グループマネジャーの泉晃さん

 同社では、運営するさまざまなWebサイトのユーザー行動データを中心に、月間数十億レコードにも上る膨大なデータが発生しているが、これまでそのデータの活用は十分と言えるものではなかった。しかし、企業ビジネスにおけるデータの重要度が増す中、リクルートとしてもデータ活用に対して本腰を入れることが重要な戦略であると位置付け、この新組織を設立するに至った。特に、顧客のライフタイムバリュー(LTV)を向上するというCRM(顧客情報管理)の観点でビッグデータを活用しようという動きがリクルート社内であったことが大きいという。

 このビッグデータグループの推進役の一人といえるのが、リクルートテクノロジーズ ITソリューション部 インフラソリューション6グループでグループマネジャーを務める泉晃さんだ。

 泉さんは2011年3月、リクルートグループのビジネスを支えるITの開発や提供を行うリクルートテクノロジーズに中途入社した。それ以前は、日本IBMでストレージのシステムエンジニアとして、さらにさかのぼると、フリーのエンジニアとして働いていたという経験を持つ。学生時代は英語英文学科に在籍していたが、キーボード配列の研究に勤しみ、ローマ字入力で有用と思われる手法を取り入れた日本語入力用拡張Dvorak配列「DvorakJP」を開発したという、一風変わった経歴の持ち主である。

リクルートのビッグデータ戦略を支える全社共通のデータ活用基盤

 リクルートテクノロジーズに入って最初に携わったのは、並列分散処理基盤「Hadoop」の導入である。プロジェクトは順調に進み、1年間で11事業に展開した。当初、ビッグデータグループはHadoopのスキルを持ったエンジニア中心だったが、大量データを活用する上で、データサイエンティストと呼ばれるような高度なデータ解析をする部隊が加わった。現在、リクルートテクノロジーズでビッグデータのソリューションを担う組織は、パートナーを含めて約120人の組織で、エンジニアとサイエンティストが同居してシナジーを生み出しているのだという。

 そうした中で2012年は、実際にデータを活用するビジネス部門にとって最適な分析インタフェースだったり、そのための基盤だったりを用意する動きが出て、データウェアハウス(DWH)やビジネスインテリジェンス(BI)を導入した。

 2013年に入ると、事業横断でのデータ活用とその仕組みを作るべく、「リクルート トータルデータベース(DB)」という全社の共通データ活用基盤の整備を進めることになった。

 「これまでリクルートは、『リクナビ』や『ホットペッパー』など、事業ドメイン内でのデータ活用は進んでいましたが、個別最適にとどまっており、組織のカベを超えたデータ連携はなされていませんでした。しかし、データが爆発的に増えていく中で、事業単体としてもうまくデータを活用し切れていないという課題が生じました。そこで効率化を図るためにサービス単体ではなく全社的にデータを集約して使おうという方針の下、トータルDBを構築することになったのです」(泉さん)

 泉さんによると、トータルDBの特徴は大きく2つあるという。1つは、各事業のデータに加えて、ユーザーID/ポイントデータなども集約している点、もう1つは、単にデータを集約するだけではなく、営業部門などのユーザーにとって使いやすい形にモデリングしている点だ。「Webサイトデータや外部のSNSデータなどさまざまなデータを取り込んでHadoopで処理し、統計解析の専門知識がない人でも簡単にデータを使えるように加工しています」と泉さんは説明する。

失敗に終わった理由

 実は泉さん、入社して1年ほど経ったころに全社共通のデータ基盤を作ろうとして失敗したそうだ。トータルDBはまさに再チャレンジということになる。なぜ失敗したのだろうか。

 「各事業とのコンセンサスがとれていませんでした。データを集約して活用することで、どういった価値が出るのかということを納得してもらう必要があったのですが、コストの観点からもデータ基盤やデータ活用のメリットを事業の担当者にうまく伝えることが難しかったです」(泉さん)

 この失敗から学んだのは、全社的な取り組みを進めるためには、各事業とのコミュニケーションを深め、彼らのビジネスを理解することが不可欠だということである。そこで、トータルDB構築のプロジェクトにおいては、事業側に座席を作ってもらい、ある程度常駐して一緒に考える時間を設けたそうだ。

ほかのプロジェクトでは得られない価値を提供

 このように全社を巻き込むような大規模プロジェクトをマネジメントする泉さんは、プロジェクトに対してどのような心構えを持っているのだろうか。

 1つには、全体最適と個別最適を要所で使い分けつつ、最終的には全体最適に組み込むことが重要だという。「全社のシステムなのだからと画一的なものにしても、結局は誰にも使ってもらえなかったりします。一方で、各事業側のニーズだけを拾って独立したシステムにしても、バラバラなシステムが乱立してしまうだけ。ある程度は事業側のニーズを聞きながらも、アーキテクチャを統一したり、共通設計部分を入れたりすることが大切です」と泉さんは話す。

 プロジェクトメンバーに対するマネジメントにもこだわりを持っている。

 「一人一人がプロジェクトにかかわることで自分のスキルや経験を向上できればいいなと思います。この仕事をして将来的に良かったなと思えるような。そのためには他人からかっこいい、すごいと言われるようなプロジェクトにすることが重要です。優秀なエンジニアは、今まで経験したことやできる仕事をやってもモチベーションになりません。自分が初めてやること、ほかのプロジェクトでは絶対にできないことを提供してあげることで、そのプロジェクトに深くコミットしてもらえるのです」(泉さん)

 また、泉さんはプロジェクトマネジメントのスキルを磨くために、資格の取得は効果的だという。例えば、トータルDBの構想を考え始めたときには「ITストラテジスト」を、前職時代にある製造業のファイルサーバをマイグレーションするプロジェクトにかかわった際には、データの監査が必要だったため、「システム監査技術者」の資格を取ったという。

 「業務だけでは気付かなかった視点を得ることもあるし、知識を身に付けることでアイデアが豊富に出るようになります。軽んじてはいけないなと思っています」(泉さん)

ビッグデータでこれまでにない新サービスを!

 今後のキャリアについて、泉さんはどのような展望を描いているのか。「トータルDBを、日本はもちろんのこと、世界でも有数のデータ活用基盤に育てたいです。その上で、このデータを活用して今のリクルートにないようなまったく新しいサービスを作りたいです」と泉さんは意気込む。

 リクルートは、世界でも有数のライフログデータを持っている会社だという。そうしたデータを集約し、さまざまな切り口で分析を加えることで、消費者一人一人に最適なサービスを提供できたり、思ってもみなかったサービスを提供したりすることも可能だとする。「データセントリックなサービスを、日本を飛び越えてグローバルでも展開していきたいです」と泉さんは力強く語った。

ITとデータはリクルートという企業にとって生命線。実際にそれを活用する営業担当をはじめ、業務部門が使いやすい形にしないと誰も使ってくれません。そうならないために、業務に応じて最適化するなど、仕組みをきちんと提供してあげるのが重要な役目だと考えています ITとデータはリクルートという企業にとって生命線。実際にそれを活用する営業担当をはじめ、業務部門が使いやすい形にしないと誰も使ってくれません。そうならないために、業務に応じて最適化するなど、仕組みをきちんと提供してあげるのが重要な役目だと考えています

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