構造改革の突破口にするフューチャーセンター岡目IT八目

日本企業のビジネス成長材料として、今注目を集めているのがフューチャーセンターだ。その可能性について、1年前にセンター開設したばかりの企業に聞いた。

» 2014年10月21日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

 従来型ビジネスモデルによる日本企業の成長が限界に来ている。1997年の523兆円から2012年に475兆円と、約50兆円減少したGDP(国民総生産)の数値に端的に表れている。少子高齢化によって、GDPのさらなる落ち込みが懸念される中で、新しいビジネスの創出方法の1つとして、注目を集めているのがフューチャーセンターだ。

富士通エフサスの危機意識

 フューチャーセンターは、企業や政府、地方自治体などさまざまな組織が中長期的な課題の解決に向けて、組織の枠を超えて集まった人たちがアイデアを出し、解決を導き出していくコミュニケーションの場などと言われている。

 「このままではますます厳しい状況になる」などとの危機意識を持った組織が「新たな道を切り開く」ために、こうした対話空間の機能を持つ同センターを開設することが多く見受けられる。

 IT機器の保守を主業務とした富士通エフサスは、そんな1社である。保守市場は年率数パーセントで縮小し続けており、IT機器の低価格化とクラウドサービスの普及がさらに進めば、市場規模はますます小さくなる。保守会社にとって、新規ビジネス創出は喫緊の課題である。

 富士通エフサスも2000年度から運用や構築、設計などの領域に踏み込み始めた。結果、2013年度は過去最高の売上高(2831億円)を記録。営業利益も36四半期連続黒字を達し、保守の落ち込みを十分に補えたという。だが、これから5年、10年も引き続き成長を持続できる保障はない。売り上げを3000億円、4000億円に伸ばすには、新しい市場や商品を創り出さなければ、その達成は難しいだろう。

 そこで、富士通エフサスは2012年度に事業領域を保守や運用、構築といった「ITインフラ・サービス」から、すそ野の広い「ICTをコアとしたトータルサービス」へとシフトした。トータルサービスとは、顧客企業の事業そのものを支援するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などで、ICTを活用したオフィスによって、新しい働き方に変革させる「オフィスまるごとイノベーション」はその先駆けになる。

 そんな新しいサービスの開発と必要な人材を育成するために、2013年6月に横浜市に開設したのが「イノベーション&フューチャーセンター」だ。顧客企業や大学、自治体、さらには富士通グループ、パートナー企業と、顧客や社会の課題を共有し、一緒に解決するサービスを創り出すのが目的。こうしたステークホルダーの“知”を組み合わせて、新しい価値を生み出すために、富士通エフサスの組織風土や働き方を変えていく。そんな役割も同センターが担う。

成果も出始める

 そうした活動を推し進めるさまざまなワークショップに、この1年間に企業や自治体、大学などから4000人以上が参加し、成果も徐々に出始めている。間接材の調達に関するBPOや、食の品質指導・管理支援、高齢者医療・福祉向けなどの新しいビジネスが生まれている。ITを活用した産業振興や雇用創出といった東北復興支援に取り組むなど、地域の将来像とその実現に向けたサービスも模索している。

 高齢医療・福祉の新規プロジェクトを担当する見目久美子次世代ビジネス企画推進本部SVPによると、新しいビジネスは3年、4年のレンジで事業化し、小さく早くスタートすることを心掛けているという。もちろん、コールセンターなど顧客との設定、全国各地の拠点による24時間365日の保守体制など、富士通エフサスの強みを生かしたサービス提供型のビジネスにする。そこから生まれた1つが在宅医療・看護の夜間休日受付サービスだ。

 とはいっても、こうした新規ビジネスの売り上げは全体の1%にも満たない。それでも今井幸隆社長が力を注ぐのは「現状維持はじり貧になる」との危機感があるからだろう。思い出すのは、2003年に社長に就任した黒川博昭氏が後に語った、赤字だった富士通の社内状況。「見ざる、言わざる、聞かざる。ゆでガエル状態で、『富士通がつぶれるはずはない』と思っていた」。そこから意識の改革などに取り組んだ。

 役割分担を進めた今の富士通で、それを担うのは子会社だろう。富士通は利益の確保と向上策を優先し、子会社が成長に向けた新規ビジネスの創出と事業改革を起こす。これが富士通グループに求められているように思える。

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