企業のマイナンバー対応、待った無しの状況に

2016年1月から「マイナンバー制度」の運用が始まるが、番号通知が始まる2015年10月以降に企業では急ピッチの対応が求められそうだ。

» 2015年03月12日 18時51分 公開
[ITmedia]

 「社会保障・税番号制度」(マイナンバー制度)の運用が2016年1月に始まる。2015年10月から国民に「マイナンバー」が通知され、企業では従業員とその扶養家族からマイナンバーを収集し、本人確認も行う。同時にマイナンバーを使う業務への対応も進めなくではならず、わずか数カ月の猶予期間で急ピッチの対応に迫られそうだ。

 2016年1月の運用開始時点は、まず雇用保険や健康保険、厚生年金保険などに関する手続きでのマイナンバーの提示や、退職者の源泉徴収票、支払調書でのマイナンバーの印字などが必要になる。1年後の2017年1月からは、給与支払報告書や賞与支払届、税額通知書などへの印字も開始される。一般企業でマイナンバーを扱う業務は、制度開始当初は入退社する従業員などが対象になるものの、2016年後半からの年末調整ではほぼ全ての従業員などが対象になる。

マイナンバー制度のスケジュール(ペイロール資料より)

 人事担当者向けのWebサイト「日本の人事部」が2014年9月に実施したアンケートによると、マイナンバー制度への対応を始めている企業は5.6%にとどまり、約7割が「始めていない」と答えた。想定される影響では38.7%が「情報漏えい」を挙げ、「業務量の増加(16.0%)」「業務プロセスの煩雑化(10.7%)」が続く。

 給与計算のアウトソーシング事業を手掛けるペイロールの本田隆執行役員は、「まず間違いなく業務量が増加する」と話す。企業が対応すべき内容は、(1)規定やルールの構築、(2)システムの構築や改修、(3)番号収集や登録に伴う確認、(4)番号情報の保管、(5)マイナンバーの定期的な確認――などだ。

 特に番号収集や登録に伴う確認業務は、従業員規模が大きいほど負担になるだろう。基本的には郵送で従業員やその扶養家族のマイナンバーと本人確認のための書類(写真入りの身分証明書のコピーなど)を集め、確認後に人事データベースなどへ登録していく。3月10日にはNTTデータがスマートフォンを使ってマイナンバーを収集・確認する方法を報道機関に公開したが、まだ実証実験という段階だ。

 また、マイナンバーを収集・確認や利用における業務フローでは第三者が介在しない方法も求められるという。

 「チェーンなど多拠点を抱える企業では拠点の担当者が採用面接や入社手続きなどをしているのが現状だ。しかし、マイナンバー制度でマイナンバーの管理者は必要最小限にしなければならない。拠点の担当者がマイナンバーを扱えず、本部の担当者が拠点を駆け回る事態も想定される」(本田氏)

煩雑化する業務の一例(同)

 情報システム側でも人事データベースや給与計算などのシステムでの対応のほか、個人情報とマイナンバーを管理するシステムを完全に分離して構築することが求められる。マイナンバー自体は番号だが、氏名や住所、収入、税、社会保障など数多くの個人情報を紐付く。万一情報が漏えいすれば極めて深刻な事態になるため、セキュリティ対策の一層の強化も求められてくる。

 ペイロールの湯淺哲哉社長は、「政府によるマイナンバーのテレビCMも3月にようやく始まったばかりで、国民や企業への周知が非常に遅れている。当社では約86万人の給与計算を担当しているが、年末調整だけでも毎年8万人が期日に間に合わない事態が生じており、マイナンバーではさらに3倍の規模に増えると想定している」と話す。同社では3月13日に「マイナンバー管理サービス」を開始して、最大100万人分のマイナンバー業務に対応する計画だという。

 周知不足に加え、一般企業にとってマイナンバー対応は、利益に直結しない義務的なものというイメージもあり、対応が遅れているとの指摘もある。2015年1月現在で6300万人以上いる就業者のマイナンバーへの対応を短期間で円滑に進められるかは不透明だ。

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