「年間1000人と会い続けた」――ALSOKのAI活用、立役者はベンチャー出身の“異邦人”【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(1/4 ページ)

「AI」を活用し、新たな警備の姿を模索する大手警備会社のALSOK。人的なサービスであるが故にIT化が遅れ気味の業界において、先進的な取り組みを進めるコツはどこにあるのか。プロジェクトの中心人物は、さまざまな業界を渡り歩いてきた“異邦人”だった。

» 2018年03月28日 08時00分 公開
[大内孝子ITmedia]

 「自社のビジネスに人工知能(AI)を」――。そんな昨今のトレンドを受け、あらゆる業種でこのように考える企業が増えてきている。確かに既存業務の自動化や、人間をはるかに超えた処理能力で新たな価値を生み出すのは魅力的だ。しかし、そういった取り組みは、実現まで至らないケースも少なくない。

 大手警備会社の綜合警備保障(ALSOK)は、2018年1月に三菱地所やPKSHA Technologyと共に監視カメラの映像をAIで解析し、“困っている人”の自動検知を行うという実証実験を行った。人的なサービスが中心の業界でALSOKが、こうした先進的な取り組みを次々と行える理由はどこにあるのだろうか。

photo ALSOKは、三菱地所やPKSHA Technologyとともに、監視カメラの映像をAIで解析して“困っている人”の自動検知を行う実証実験を行った

ビジネスへのAI導入、「着手したいがどこから……」

photo ALSOK 商品サービス企画部次長の干場久仁雄さん

 三菱地所との共同プロジェクトで、ALSOK側の中心となったのは、商品サービス企画部次長の干場久仁雄さんだ。その名の通り、自社や他社のリソースを活用し、新たな商品を企画するのがミッションで、これまでに、子どもや高齢者の見守りサービス、集合住宅向けのセキュリティサービスなどを企画してきた。

 世間のトレンドに合わせた形で、ALSOKの経営陣がAIに興味を持ち始めたのは、2016年の夏ごろのこと。しかし、干場さんたちは2015年くらいから既に、AI活用のトライアルに着手していた。IT系企業の研究所と協力し、ディープラーニングによる動画の解析に取り組んだという。

 「商品サービス企画部は、とにかく新しいことをやる必要があるため、2014年ごろからベンチャー開拓を続けています。新しいことを始めるには、まずは会社の外に目を向け、情報を集める必要があります。勉強会やコミュニティーに参加する中で、『AI、特にディープラーニングがすごいらしい』という話は聞いていたものの、どう着手したらいいかも分からない。一緒に組むパートナーも同時に探していたというわけです」(干場さん)

 AIの認知度が今ほど高くなかった当時は、AIを扱えるエンジニアや企業はまだ少数で、小規模な勉強会を開いて情報共有などを始めていた状態だった。画像を解析したいが素材になるデータを持っていない研究所と、データは大量にあるものの、ツール作成が苦手なALSOK。両者のニーズが合致し、プロジェクトが始まった。

 「プロジェクトを通じて、データの学習や評価の方法、単にデータを入力させればいいわけではないこと、判定の精度を高めすぎると逆に見逃す場合があること、などが分かりました。検知は何秒以内、誤差率は何%以内といった、実業務に必要な要件というのは、実際に試してみることでしか分からないように思います」(干場さん)

 プロジェクトは一定の成果を出し、半年後の2016年春ごろには、警備に特化したシンプルな判定ができるレベルにまで達したが、このタイミングで方針を変えることになった。

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