先日、東京都内のシステム会社に勤務する本誌の読者から面白い話を伺いました。
「インドの会社を使っていたころ、現地にインド人のLibrarianを雇っていました」
“Librarian”という単語を辞書で引くと「司書、図書館員」とあります。しかし、ここでの意味は、プロジェクト管理に必要な各種データを整理整とんしておく、裏方職人(アシスタント)という意味です。このLibrarianの主な業務には、以下のようなものが挙げられます。
PM(プロジェクトマネージャ)は、Librarianが準備した資料を分析して、プロジェクトにおける重要な意思決定を下す。これが1つの理想形です。先述の読者は、「発注規模の大きいインドオフショア開発では、インド側に専門のLibrarianを雇うことで、管理工数を大幅に削減できた」と成功要因を語ってくれました。
一方、発注規模の小さい中国オフショア開発に対しては、厳しい意見が飛び出しました。「Librarianを雇う予算がないばかりか、中国側にLibrarianを使いこなすノウハウがない」と指摘するのです。これは、すなわち情報整理や、レポーティングが軽視される状況を反映しているといえます。この苦言を軽く笑い飛ばすような中国ベンダの出現を願うばかりです。
以前より筆者は、オフショア開発では原則として、どちらかにネイティブスピーカーがいる言語を使うべきだと考えています。オフショア開発の相手が中国であれば、日本語か中国語に統一することが望ましいのです。ところが、時折英語を交えて会話する方が、双方が母国語でないために、対等な雰囲気で円滑に進められるメリットもあります。筆者の元に寄せられたご意見を紹介します。
-----Original Message-----
私は90年代前半の約4年間、中国の会社で日本人1人とスタッフで事業を行っていた経験があります。
そのときの中国人メンバーとは、いまでも仕事の付き合いがあります。現地中国人との会話は社長レベルとは英語で、スタッフとは中国語でした。
実際は、英語・中国語・日本語の合成会話といってもよと思います。それでも分からなければ筆談です。要は、どれだけその人と心が通じ、理解し合えるかがポイントだと思います。
さらに、実際は双方で日本語、中国語の学習をして実業務に生かす努力が必要です。私も最初は通訳を通じて仕事をしていましたが、現在では自分で中国語学習をして中国人とは中国語で話をしています。通訳を通して痛い目に遭ったからです。
-----Original Message-----
貴重なコメントをありがとうございます。この方の意見からも、あなたが中国語(日本語)をしゃべれないとしても、怒りや失望、称賛、歓喜といった感情は、できる限り直接相手に伝えることが重要だと思います。
中国人の通訳を自分の分身として使うと、間違いなく失敗します。同様に、通訳を私設秘書のように扱っても、やはり失敗するのです。なぜなら、通訳は言葉の意味を正しく伝えることはできますが、あなたの感情までは正確に表現できないからです。
幸地 司(こうち つかさ)
アイコーチ有限会社 代表取締役
沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。
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