マネージャに必要な“ギャップを見つけるヒアリング力”問題発見力勉強会より(1)(2/2 ページ)

» 2005年11月11日 12時00分 公開
[生井俊,@IT]
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「難しい」と感じるのが、良いコミュニケーション

 皆さんはどういったときにコミュニケーションが難しいと感じられますか。

──(会場)バックグラウンドが違う人に説明をするときです。

 なぜ、難しいのでしょうか。

──前提となる基盤から教える必要があるからではないでしょうか。

 現場担当者、中間管理職層、トップマネジメントへのアンケートの回答を見ると、「コミュニケーションが難しい」と感じているのは、中間管理職層が特に多いんです。なぜかと考えると、中間管理職層が実行責任者で、若い層とコミュニケーションを取らなければならないからです。トップマネジメントは? というと、その必要がない。絶対権力ですから「伝わらないのは部下の説明が悪い」となる。

 部長クラスが「昔は飲みニケーションで済んだのに……」とよくいいますが、それは一緒に飲んでいる時間が長かったから何となく分かった気になっていただけです。コミュニケーションは、量ではなく質で決まります。「どう質を保つか」がキーになります。

 今年、『サイエンス』という科学雑誌に、芸術と科学の分野で「多様性を持たせることが成功につながる」という内容のリポートが載りました。これはミュージカル『ウェストサイド物語』などの成功例を調査したところ、成果を上げるチーム構成とは「新人を1/4以下の比率でメンバーに加える」ことと「初顔合わせのベテランを2名以上加える」ことがキーになっていたというのです。


リンク
「Team Assembly Mechanisms Determine Collaboration Network Structure and Team Performance」(Science, Vol 308, Issue 5722, 697-702 , 29 April 2005)


 なぜ、この構成だと成功確率が高まるのでしょうか。

──(会場)新人がいると説明しないといけないし、ベテランはお互いのギャップを埋めようとするから。

 経験あるベテランも初顔合わせということで、ベテラン同士の前提条件が違うため“あうんの呼吸”はありません。また、新人がいることで基礎的な説明も必要になります。このように「説得」や「理解」が必要であることから、積極的なコミュニケーションが行われるようになります。質の高いコミュニケーションには、こうしたチーム構成が影響していたというわけです。

 先ほど、中間管理職やマネージャが特にコミュニケーションの難しさを感じていると申しましたが、「ギャップを見つけるためのコミュニケーションだ」と考えれば、ギャップを違和感としないようになります。「相手の気持ちを考える」ではなく、「ギャップを見つければ良い」となるわけです。

ヒアリングスキルと質問話法

 PMに生かすヒアリングスキルとして、プロジェクトスタート前に、想定される問題をいかに見つけられるかということがあります。それにはレビューが大切で、過去のプロジェクトでも「散々だった」というものが最適です。具体的なプロセスを書き出し、具体的に想定してやっていきます。

 早期に問題を感じ取ることができるか、という点はコミュニケーションが前提になります。プロジェクトに活気がなくなると、有能なプロジェクトマネージャはインタビューを開始します。システムやツールを使うと、プロジェクトに遅れが生じたときには分かるのですが、遅れる前の“兆候”までは分かりません。コミュニケーションを増やすことで、プロジェクトが実際に遅れる前に“遅れる気配”が分かる可能性が高まります。

 次に、ソリューションに生かすヒアリングスキルとして、相手の気付いていない問題点を見つけられるかがあります。お客さまにとってありがたくないかもしれませんが、話している内容以外の部分に問題が見つけられるか、それをいかに聞き出せるかでソリューションの質が決まります。

 相手の話を理解して聞くことができなければ、本当のヒアリング力とはいえません。そのキーとなるのが構造化力です。これは、次回の勉強会で扱いますので、今回は「理解する力が必要」ということを押さえておいてください。

 問題発見能力の第一歩は、相手が抱えている問題や要望を聞き出すことです。しかし、相手がいつも雄弁に語ってくれるわけではありません。ヒアリングスキル(質問話法)とは、質問によって相手の考えていることを引き出す方法で、聞き役に徹することがポイントです。自分が話す量と相手が話す量は1対9が理想で、1は質問です。

 ヒアリングスキルには限定質問話法と拡大質問話法の2つがあります。以前の連載記事「問題発見能力を高める(5)」に詳しく書きましたが、限定質問話法と拡大質問話法とを組み合わせることで、得られる結果が大きく変わってきます。

 限定質問話法と拡大質問話法の2つを使い分けることにより、相手の頭をクリアにすることができます。テレビを見るときにアナウンサーやインタビューアーの質問が限定質問話法なのか、拡大質問話法なのかを考えると、理解力の訓練になります。

 またシチュエーションを決め、時間を区切って質問を作り、それを分類するトレーニングも効果的です。限定質問のときはそれを深掘りする拡大質問を、拡大質問のときはそれを聞き出す限定質問をペアで考えるトレーニングをすることで、質の高いコミュニケーションを取ることができるようになるのです。

質疑応答・感想から

──質の良いコミュニケーションを心掛けていますが、情報のやりとりが対面から電子メールになったことで、量が多くなり、うまくいかないことがあります。

秋池氏 次に扱う「構造化力」を持つと、克服できます。メールで伝えるときは、「ポイントは2つありまして……」のように書いたり、「イエス、ノーで書け」「これについてコメントを書け」などと指示することで、メールでもコミュニケーションの質を高めることができます。

──相手のプライドが邪魔をして、本音を聞き出せないときにどう質問したらいいでしょうか。

秋池氏 会議室で役員に囲まれて話すこともありますが、そんな緊張感、距離感があるときでも、気持ちとしては相手の横で話している雰囲気を心掛けるといいでしょう。建前の部分の聞き出しは「ユアサイド(味方)です」というスタンスが大切で、ギャップを探すばかりだと監査のようになってしまいます。相手が身構えないように「ギャップを出すことは良いことだ」という雰囲気作り、そして人を責めないことが大切です。

 例えば「どうしてこうなってしまったのだろう?」といういい方をすると、人が悪いとなってしまいます。そこは「どうしてこのプロセスのときにこうするのだろう?」と聞けば、プロセスが悪いということになります。

編集部から

 勉強会の感想として「スキルを上げていく際に、チーム内に新人を入れるなどの”環境を作る”というのは頭になかったので参考になった」「コミュニケーションを通していかに問題点(ギャップ)を発見していくかが、プロジェクト成功への一歩になることが分かった」「今後につながるスキル(質問話法)に気付くことができた」といった意見が寄せられた。

 次回、11月22日(火)の第2回 問題発見力勉強会は、「構造化力で理解力に差をつける」をテーマに、ワークショップを中心に行う予定だ。

profile

生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。


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