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» 2007年11月09日 15時51分 UPDATE

本田雅一のTV Style:薄型テレビの能力を引き出す“音”

薄型テレビを選ぶ際、うっかりチェックをし忘れがちな項目がある。それが音質だ。テレビは薄型化、デザイン面でのシェイプアップが進み、音質はブラウン管テレビ時代よりも大きく下がってしまった。

[本田雅一,ITmedia]

 薄型テレビを選ぶ際、うっかりチェックをし忘れがちな項目がある。それが音質だ。テレビの本業は映像を映し出すこと。ちょっとしたAVマニアなら、テレビ内蔵のスピーカーは利用せず、フロントサラウンドシステムや本格的な5.1サラウンドシステムを導入しているかもしれない。

 しかし、テレビを大きくするのにスピーカーなんて設置する余裕はない、というケースが圧倒的に多いのもまた事実だ。ところがテレビは薄型化、デザイン面でのシェイプアップが進み、音質はブラウン管テレビ時代よりも大きく下がってしまった。

 映像を楽しむ上で、画質と音質は表裏一体の関係がある。画質が向上すると、同じ音質のオーディオを組み合わせても、音が映像に負けてチープに聞こえるものだ。逆に音が良ければ、映像がより際立って良く見える。

 メーカーがユーザーイベントなどで映像を見せる際、必ず、それなりに品質の高いオーディオシステムでデモを行うのは、大きなデモ会場でしっかりとした音を出すという目的もあるが、映像をより美しく見せるためという理由もある。

 そんなわけで、一部のメーカーは既に音質向上対策をテレビに施している。新型テレビの視聴にメーカー視聴室に伺うと「今度の音はどうですか?」と尋ねられることが多くなったが、「これはいいんじゃないかな」と思える音に出会う機会はほとんどない。

 良い音といっても、もちろん程度問題ではある。奥行きもベゼル幅も削ってスリムなプロポーションを実現した上で、さらに低域をきちんと出そうなんてことは、物理的に空気を揺らして音を出している限り難しい。しかし、限られた空間の中でも、結構な音を出している製品がある。それがパイオニアの「KURO」シリーズだ。

photo 「KURO」では内蔵のデジタルアンプや長円形のスピーカーユニットなどをすべて新規開発。低歪率コイルを採用するなど、オーディオコンポーネントの技術を取り入れている

 KUROにはディスプレイ側面に別体式サイドスピーカーを取り付けるフルHDモデルと、画面下に内蔵スピーカーを備えるWXGAモデルがある。低域の再生能力やステレオ感の広がりはサイドスピーカーの方が良いのだが、音の質という意味では両方とも他社製に比べ突出して良い。

 情報量が多く、音像定位もしっかりしており、ステレオながらも奥行き感のある音場ができており、なにより音の質感表現がきちんとできている。実にオーディオ機器的な音がするのだ。サイドスピーカーモデルなら、下手なミニコンポよりもずっと質の高い音だと感じるだろう。

 なんでこんなに良いのか?とパイオニアに尋ねたことがある。すると答えは簡単だった。

 スピーカーの質を上げるため、スピーカー開発のメンバーがKUROのスピーカー設計に加わっている(最近はご存じない方も多いだろうが、パイオニアは元々、スピーカーメーカーとして生まれた会社だ)のだが、それだけでなく、スピーカーを駆動するアンプ部の設計にAVアンプやオーディオアンプの設計ノウハウを注入しているのだという。

 オーディオ設計は、単に回路構成をきちんと作って音が出ればOKというものではない。グラウンドポイントの取り方やラインの引き回し方など、さまざまなノウハウの上に出来ている。映像回路とオーディオ回路を一体にしながら、きちんと音質を高めるAVアンプの設計ノウハウがKUROのアンプ部に生きているのだそうだ。

 スピーカーだけでなく、スピーカーに信号を送り出すアンプ部にも拘った。だから音が良いというのは当然のことだろう。このぐらい音質差があれば、おそらく店頭でもハッキリと違いを確認できるのではないかと思う。

 もっとも、KUROは他の薄型テレビよりもかなり高額なプレミアム製品だ。その価値に対して対価を支払う覚悟が必要であり、このぐらいの音質は当然持っていてしかるべしという厳しい意見もあるだろう。

 その通りで、売れ筋の価格帯よりも少し上、一般的なプレミアムラインぐらいの価格帯でKURO並に高音質なテレビが今後は増えていって欲しいものだ。

 たとえば松下電器は大容量の共鳴管を持つウーファーユニットをVIERAの「PZ750」に採用しているし、ソニーは「BRAIA」のXシリーズでさりげないデザインのサイドスピーカーを使っている。シェアトップのシャープも、同社の内製技術である1ビットアンプと2.1チャンネルスピーカーの内蔵で画質と音質のバランスを取ろうとしている。

photo ビクターはWAVESの「MAXX Audio」を採用した。写真は805シリーズの設定画面

 さらにオーディオメーカーでもある日本ビクターは、「EXE」シリーズのスピーカーユニット改良を行うとともに、WAVESの「MAXX Audio」を採用することでこだわりを見せている(→関連記事)。MAXX Audioはいくつかの要素技術を組み合わせたもので、たとえば「MAXX BASS」はパイプオルガンの低域再生原理を用いて、本来は再生できない低音が「聞こえているように感じさせる」機能だ。ボリュームがCM中も大きくならない「MAX Volume」もある。三菱電機もビクターと同様のアプローチ。「REAL」シリーズに「DIATONE」ブランドスピーカーと社内の研究所で開発した音響処理技術を盛り込んで音質にケアしている。

 このように、意外に各社とも音質対策に力を入れているのが今年の年末商戦モデル。多数の製品が並び、賑やかな雑音も多い店頭ではなかなか比較するのは難しいかもしれないが、最後にどちらにしようと迷うぐらいまで製品を絞り込んだなら、映像ばかりではなく音の質にも目を向けてみてはいかがだろうか。

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