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ビクター「DLA-HD100」で見るBD「ブレードランナー」の漆黒の闇山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.9(2/2 ページ)

» 2008年03月05日 12時26分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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 しかし、性能面ではHD1から大きくブラッシュアップされている。まず心臓部の0.7インチD-ILA素子が改良され、黒輝度が半減。パネルコントラストを4万:1に、絞り機構を使わないネイティブ・コントラストを製品レベルで3万:1に引き上げている(HD1はそれぞれ2万:1、1万5000:1)。

photophoto 入力端子はHDMI×2系統、コンポーネント×1系統、S端子×1系統、コンポジット×1系統。HD1よりもHDMI端子の間隔を広げ、太いケーブルを接続できるようになった

 HD1はワイヤーグリッド光学エンジンの採用によってコントラスト表現を大きく向上させたわけだが、HD100はそれに加えてパネル部のいっそうの平坦化と光学系の更なる遮光対策により、黒輝度を0.02ルーメンまで落すことに成功し、この驚異的なネイティブ・コントラストを実現したわけである。

 HD1の黒を初めて見たときも驚いたが、HD100はさらに凄い。「ブレードランナー」ファイナル・カット版BDの冒頭、酸性雨が降りしきる2019年のLAの暗鬱な夜の風景を、“墨痕鮮やかな艶のある黒”で見事に活写するのである。こんなにコントラストの際立った鮮明な「ブレードランナー」、見たことない! とまず感激してしまった。

 雨とスモークの向こうに見えるディティールの表現も出色。美は乱調にあり、とでも言いたげなネオンサイン輝くアジア的混沌に満ちたプロダクション・デザインの素晴らしさを、HD100は秀逸な階調表現力で完璧に描ききるのである。

 そして、HD100で「ブレードランナー」を観て、黒表現の素晴らしさとともに感心したのが、色再現の見事さである。

 ぼくにとってHD1の最大の不満は色、とくに赤系の再現性にあった。キセノンランプを使ったライバル機のソニー「VPL-VW100/VW200」に比べて、HD1は色表現が単調、赤の見せ方の懐の深さでHD1はソニーのSXRD機に大きく劣っているという印象を抱いていたのだが、HD100Hはそこが大きく改善されている。

 その最大の理由は、ランプの光をRGBの3原色に分けるフィールドレンズに使われる分光フィルターの精度向上にあった。赤のサイドバンド、オレンジ成分を急峻にカットできる特性を分光フィルターに持たせ、緑成分を抑えることで、茜色から紅方向の表現域を広げることに成功したのである。

 しかし、フィルターで緑の出力を落すということは、明るさが犠牲になるということ。実際、白ピークは、HD1の700 ルーメンから600ルーメンに低下したが、同社開発陣は、明るさとのトレードオフを承知の上で、本機における色再現の豊富化を実現したかったのだろう。

 また、フィルターの精度向上による色再現範囲の向上に合わせて、肌色近辺のホワイトバランスの最適化がよりいっそう進められており、とくに白人女優のスキントーンの見事さ、美しさはタダゴトではない。

 タイレル社の不思議な会議室で、デッカードがレイチェルをレプリカントかどうかテストするシーン。HD100は、レイチェルのウソのように整った青ざめた冷たい横顔を、息をのむような美しいスキントーンで描ききる。この憂鬱な美しい表情を見れば、テストせずともレイチェルがレプリカントかどうか分かるでしょ、と思わせる素晴らしい肌色表現なのである(しかし、レイチェルの太い眉毛、肩が大きく張った逆三角形のスーツが80年代しているなあ)。

 HD1のハイコントラスト表現に磨きをかけながら、ここまでの映画的官能表現力を身につけたHD100、恐るべし。こんにち市場を賑わせているプロジェクターの中で、本機の肌色表現力は間違いなくトップクラスだろう。

photo 「カスタムガンマ」の設定画面。柔軟な設定が可能だ

 HD100を実際に使ってみて、もう1つ感心したことがある。それは思い通りの階調表現にきめ細かくアジャストできる「カスタムガンマ」機能の懐の深さである。

 本機には、「シネマ」「ナチュラル」「ダイナミック」というプリセット画質モードがあり、通常映画を観るときは「シネマ」モードを選んでおけば、ほぼ不満のない画質で楽しめると思う。実際、今回「ブレードランナー」のファイナル・カット版をこのモードで観て、ぼくは積極的に画質調整したいという気持ちにはならなかった。

 しかし、さまざまなソフトを観賞していて、黒浮きや黒つぶれが気になる作品に出会うことがあるはず。そんなときは本機の画質調整項目の「ガンマ」に入り、まず「ノーマル」「シアター1」「シアター2」「ダイナミック」の4つのプリセット・ガンマカーブを試してみるとよい。

 しかし、それでも自分の感覚にフィットする階調表現が得られなければ、今度は「カスタム」モードに入る。そうすると、1.8から2.6乗まで0.1乗刻みで9通りの基準ガンマカーブが選べる(この数字が小さいほど暗部から中輝度部が明るくなる。収録カメラが設定している標準ガンマは真ん中の2.2乗)。そして、その基準ガンマを決めた後、画面上に表示されるグラフとグレースケールを見ながら、さらに12ポイントで10ビット=1024階調分の微調整ができるのである。

 映画ソースでは、暗部階調をいかに表現するかが重要となるが、本機のカスタムガンマ調整は、0から20IREまで5%ステップとかなりきめ細かく刻まれているので、じっくりと暗部階調の微妙な再現に取り組むことができる(20〜90IREは10%刻み)。

 実際に、ファイナル・カット版の薄暗いセバスチャンの部屋をバディが訪ねるシーンで、このカスタムガンマ機能を使ってみた。基準ガンマを標準ガンマよりも暗部をつぶした2.3乗を選び、5IRE、10IREのポイントを少しずつ持ち上げていく。そうすると、ペデスタルの黒はしっかりと沈みながら、徐々に暗部の見通しがよくなるのが実感できた。

 懐の深い画質調整項目で、映画と対話しながら高画質を目指せるビクターDLA-HD100。大画面AVの醍醐味を満喫させてくれるじつに興味深いプロジェクターである。市場での人気の高さが頷ける製品だった。

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