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» 2008年04月25日 09時39分 UPDATE

本田雅一のTV Style:“MA-KURO”の行く末

昨日、パイオニアと松下電器産業がPDPパネル・モジュールの開発と戦略的な生産供給に関する包括提携を行うことで基本合意した。そこで今回は、少し予定を変えてパイオニア「KURO」の今後について話を進めたいと思う。

[本田雅一,ITmedia]

 今回は少し予定を変えて、パイオニア「KURO」シリーズの今後について話を進めたいと思う。

 低価格・高スペックなテレビを望む人がいるのと同じように、高画質・高品質なテレビが買えなくなることを懸念する消費者もいる。そんな人たちにとって、パイオニアのプラズマ自社生産撤退は、大きな心配事として捉えられていた。

 パイオニアのプラズマテレビは、単に高スペックなパネルを使ったテレビというだけでなく、さまざまなこだわりが詰まった驚くほど丁寧な製品だったからだ。筆者自身、現行製品の「PDP-6010HD」を使用しているが、不満といえば遅くて使いにくいEPGぐらいのもの。レコーダーでのタイムシフト視聴やパッケージソフト中心のユーザーならば、気になるところはない。

 例えばKUROシリーズには、画素欠損がないという。これは実際にパイオニアの役員に伺った話だが、画素欠損のチェックを全数行っていたという。細かなところでは照度センサーに合わせ、電源LEDの明るさが自動的に変化する。部屋の照明を落とすと画面脇に見える電源LEDが邪魔に感じられるからだ。パイオニアのロゴが目立ちにくい色合いになったのも同じ理由。大きいと邪魔にされることの多いサイドスピーカーも、内蔵アンプの質も含め、薄型テレビでも手間をかければ音質を改善できることを気付かせてくれた。

 激しい価格競争の中にあっては、いずれも真っ先に無視を決め込む方が利益は出る。しかし高価だが高付加価値で丁寧な高級品としてKUROシリーズを位置付けたパイオニアは、思い切って販売量を求める方針をやめ、量より質の戦略に出た。

 パネル生産撤退について、後からいろいろな分析を行うことはできるだろうが、ここでは触れようとは思わない。経営判断と製品としての質は全く別次元のものだ。1つ言えるのは、パイオニアの高級機戦略においては、自社生産を諦めざるを得なかったということ。冒頭に上げた一部から上がる“心配事”も、本当の意味で高級・高品質路線で製品の細部まで突き詰めるテレビメーカーがほとんどないことを考えれば当然のことだと思えてしまう。

 ところで、パイオニアの高画質路線は、何もセット商品としての仕上げだけに現れているわけではない。例えばパネルを製造するプロセスの開発においても、他社の技術者は声を揃えて「パイオニアは歩留まりよりも質を優先する。量産でコストを下げることが最優先事項の我々にはマネできない」と話す。

 この言葉の裏には「量産性よりも画質の高さを重視して開発するなら、パイオニアに負けることなんかない」という自信があるのだが、では量産性を重視したプロセス開発を行いつつ、パイオニアと松下電器産業の事業提携で生まれるパネルから、本当に従来のパイオニア路線と同様の高画質・高品質テレビが生まれるのだろうか?

 パイオニアのプラズマテレビが高画質だった理由はいくつかある。1つには、キセノン濃度が圧倒的に高かったことだ。パネル内に封入されているキセノンガスの濃度が高いほど、プラズマの発光効率は高くなるので、ピーク輝度を引き出しやすく、消費電力も抑えることができる。

 しかしキセノン濃度が高すぎると、安定して発光のオン/オフを制御することが難しい。パイオニアも放電を安定させるための予備放電を抑えるのに四苦八苦していた時期があるが(その結果、黒浮きが目立ち暗所コントラストが下がる)、新しい材料を発見したことで劇的に改善が進んでいった。その後、駆動方法まで含めて再検討し、コントラストを向上させたのが「KURO」シリーズである。さらに前述の新材料の使いこなしを広げていくと、とうとう安定放電を行うための予備放電(種火放電ともいう)をゼロにしたパネルを今年1月の「International CES」に持ち込んで周囲を驚かせた(→関連記事)。

photophoto KUROならぬ“MA-KURO”(真っ黒)を実現した「究極のコントラスト」モデル。予備放電をなくして漆黒の表現を可能にした

 加えてダイレクトカラーフィルターに拘り、コントラストの高さだけでなく解像感を引き出している。やや白ピークが立つ傾向を感じる質感は好みもあるだろうが、やはり現状、そしてこの春の他社モデルを試した結果と比較しても、いまだ優位性は健在である。薄型化にしても3センチという超薄型パネルの実働するものがあり、同じく薄型プラズマを持ち込んでいた松下を慌てさせたほどだ(→関連記事)。

photo 厚さ3センチという「アドバンストデザイン」のコンセプトモデル。パネル自体の厚さはわずか9ミリ

 では、今年年末のモデルをもって、パイオニアの高画質パネルを使ったこだわりのテレビは入手不可能になるのだろうか?

 パイオニアはプラズマパネルの生産撤退を示した直後から、松下電器からパネル調達を行うと話していた。加えて自社の持つ技術を松下電器に供与し、直接生産からは撤退したあとも、従来路線の高品質プラズマパネルの調達を行うために調整を行うと話してきた。その調整がついたというのが昨日のニュースである。

 パイオニアの血が注がれた松下製プラズマパネルは来年末向けのモデルに搭載するべく、今後詳細を詰めていくとのこと。開発主体はあくまでも松下電器であるため、生産性の高さを重視したプロセスにはなるだろうが、電極配置などの構造面や外光フィルター、ダイレクトカラーフィルターなどが松下に供与され、キセノンガス濃度が高くなれば、松下、パイオニアともにコントラストや消費電力の面でプラスになるはずだ。

 問題は松下が階調よりも、パッと見た時のざらつきが少ない質感を重視しているのに対して、パイオニアは多少、疑似階調がザラつき感を出してしまうことがあったとしても、階調の滑らかさや自然な繋がりを表現できる懐の広さを重視している。このあたりはプラズマパネルを駆動するためのLSI設計にも関わってくるため、パイオニアと松下では同じパネルでも画質や階調表現に関して全く異なる質感を持つようになるように思う。

 いずれにしろ、CESで“MA-KURO”(まっくろ)と表現した超高コントラストパネルも、さほど遠くない未来に登場する可能性が出てきた。これでひとまず、優れていた技術が失われてしまう可能性は大きく下がったと考えて良さそうだ。

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