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今だからこそ再確認したい、議論のしかた小寺信良の現象試考(1/3 ページ)

» 2009年09月07日 08時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ケータイと子どもに関するトラブルを、色々と調べている。詐欺やみだらな行為などの被害にあうことは大きな問題ではあるが、地味ながら必ず遭遇する問題として、ネットやメールのやりとり上で起こる小さなケンカというのがある。ネットは人の悪意を拡大するなどと言われることもあるが、おそらく問題は、意思の疎通が十分ではないことに起因するのではないかと思われる。

 ちゃんと話をすればどうということもないことを、不自由な表現手法と不慣れな文章記述という枠の中でコミュニケーションを行なおうとすれば、お互いに足りない部分は推測で補完するしかない。その推測が善意に満ちていればいいが、相手の顔や態度が見えないと、悪意の方にフラグが倒れがちになる。

 ネットやメールの文面で相手に失礼がないように、というのはマナーやモラルの問題だが、意思の疎通や議論の方法論といったことは、そういうくくりでは語れない問題であろう。そういえば議論のしかたというのは、学校でロジカルに教わったことがないような気がする。ちょっと気になったので、小中高の先生方に授業で議論のしかたというのを教えるのか聞いてみた。

 議論のしかたを指導する場面としては、小学校時代から教科外学習である特別活動、学級会や児童会などを指導する際に行なわれることになっている。だが先生自身が議論のしかたを学んで教員になっているわけではないこと、また特別活動を担当する先生が生活指導を兼任することが多いため、その手の知識がないことなどがネックになっているようである。

 議論のしかたは歳を負うごとに自然に身につく、とも言えるのだが、議論に対しての姿勢や考え方は、どうも人それぞれなんじゃないかと思う。すでに社会人となって会議などに出席するようになっていても、やはり上手な議論のしかたというのがあるのならば、それを知っておいて損はないだろう。今回は、このような日本の状況における議論のしかたについて考えてみたい。

何のために議論するのか

 議論をする必要があるシーンを考えてみると、そこに利害関係の対立があり、それを調整する必要がある場面で議論が発生するわけである。個人対個人でも組織対組織でもそうだし、同じ組織内でそのプロジェクトをやるべきかやらざるべきかを巡っても、その組織の利害を考えて立場が分かれるわけである。

 すなわち議論本来の目的とは、利害関係を調整して、双方が納得できる結論を得ることである。その課程においては、自分の見解を相手に伝え、同じ分だけ相手の見解を聞かなければならない。したがって、威圧的な態度や多数の支持者をバックに相手を威嚇したり、挑発的な態度でそもそも相手の意見を聞く姿勢を見せなかったり、相手に対して個人的な遺恨を持っていたり、社会的立場を利用して相手の見解を封じるという状況下では、そもそも議論にならないわけである。現実には完全な公平性を担保するのは難しい話だが、これらのことは実は重要なポイントなので、よく記憶されたい。

 議論によって弁論が進めば、相手の主張に納得できないポイントが当然出てくる。そこは相手にその部分の詳細を質問すべきであり、質問された側は相手を納得させるだけの説得力をもって回答を行なわなければならない。そうして相手の主張に対して疑問なく理解できた段階で、自分の意見の正当性をもう一度チェックし、理に適う部分を選択するわけである。それを踏まえた上で、双方が納得できる解を相談しながら探すことになる。

 そもそも議論とはケンカではないので、どちらかが勝ったとか負けたとかいう概念を持ち込むことは正しくない。あえて言うならば、双方納得できる解が導き出せれば双方の勝ちであり、その解が見つからなければ双方の負けなのである。したがって「議論に負ける」という言い方は、自分の主張が通らなかったことを指すのではなく、結論が得られなかったことを指す「べき」なのだろうと思う。

 ここまでのポイントをまとめると、

  • 議論では双方の意見を均等に発表
  • 納得できない部分を質問と回答でクリアにする
  • 双方の主張に疑問がなくなった時点で、互いに自分の意見の正当性をチェックする
  • 双方が納得できる結論を、双方協力しながら探す

 ということになる。完全に納得できる答えはなかなか見つからないかもしれないが、そこは引けるところは引き、どうしても譲れない部分は相手へのさらなる理解を求めることになる。また解決策が見つからない場合は、当事者以外の参考人の意見を聞くことで活路が開ける場合がある。うまい議論とは、参加者が人の話をよく聞いて、理解することである。

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