ITmedia NEWS >

秋のオーディオ大豊作祭り(前編)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)

» 2010年11月23日 14時46分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
前のページへ 1|2       
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

超高級スピーカー「STELLA UTOPIA EM」(FOCAL)

「STELLA UTOPIA EM」

 次は、高級スピーカーの中から、ロッキーインターナショナルが扱っている仏FOCAL(フォーカル)の「STELLA UTOPIA EM」(ステラユートピアEM)を紹介したいと思います。国際オーディオ・ショーで展示されていましたから、ご覧になった方もいるでしょう。まさに、すべてにおいてハイエンドのスピーカーです。その音は、雄大なのに繊細。スケールが大きくて安定しているのに、すごく細かい音まで出てきます。

 このスピーカー、実はウーファーが革新的。ネオジウムなどの永久磁石ではなく、電磁石を導入しているんです。いわゆる「励磁型」ですね。低域を担当するスピーカーで音の量感を出すためには、磁石も大きく、強力でなければなりませんが、大きくすると音の立ち上がりが悪くなるという矛盾を抱えています。ほしいのは、軽くて強力な音でした。

 FOCALは、駆動回路に電磁石を導入することで、重たいユニットを軽々と動かすことに成功しました。実際に聴くと、軽快で量感も十分。情報量の多く、かつ音楽的なまとまりがあります。例えばモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」(コロンビア交響楽団、ブルーノ・ワルター指揮)を聴いてみると、「CDにこんな音が入っていたの?」と驚かされます。CDには本来、速くて量感のある音が入っているのに、それを再生できるスピーカーはなかなかない、ということでしょう。スコアの1つ1つ、楽器の1つ1つがよく見えてくるような印象でした。

 私が最近、試聴会などでよく使っているのが、ワーナーミュージック・ジャパンが初めて出したSACD「角田健一ビッグバンド」です。これまで定評のあるスピーカーで再生しても、このコンテンツが持つ、音の切れ味やスケール感やSACDならではの臨場感はなかなか再現されなかったのですが、STELLA UTOPIA EMは実にリアルに、そしてダイナミックに、非常に繊細な部分まで再生してくれ、大変感動いたしました。国際オーディオショーで私が行ったイベントでは、試聴会が終わると泣きながら会場を後にした女性もいたと、後で係員の方が言っていました。そのくらい感動をおぼえる音なのです。

 フォーカルは、ベリリウム振動板や逆アール型ドームスピーカーなどを開発した先進的なメーカーですが、CDに入っている音をここまで再生できるとは驚きでした。ちなみに、値段もびっくりの1029万円(ペア)です。

デノン100周年記念モデル

 最近、感心したのがデノンの創立100周年モデル「A100シリーズ」です。実は、最初はあまり期待していませんでした。なぜかというと、それぞれベースモデルを黒く塗って適当にチューニングを施しただけで、あまり力を入れているようには見えなかったからです。価格もベースモデルとあまり変わらないので(2chアンプで5万円アップ)、デザインモデルと思っていました。

デノンの創立100周年モデル「A100シリーズ」。プリメインアンプ「PMA-A100」は、特別仕様らしく金メッキスピーカーターミナル、鋳鉄製インシュレーターなど、選び抜かれた部品を採用した。希望小売価格は23万1000円(左)。CD/SACDプレーヤー「DCD-A100」は、USB端子を備え、iPodやUSBメモリーの音楽ファイルも再生可能。同23万1000円(右)

 しかし、実際にベースモデルと聞き比べると明らかに違いました。例えば、インテグレーテッドアンプの「PMA-A100」は「PMA-2000SE」がベースになっていますが、明らかに音楽性が高く、音を聴いていて気持ちよくなる要素がたくさん加わっています。自然に音楽に入り込める。音楽のツヤが増す。そんな感じですね。

 またカートリッジの「DL-A100」は、1964年に開発された「DL-103」という定番カートリッジの初期スタイルを復活させたものです。モデルチェンジのたびに進化してきたものですが、DL-A100は今の感覚で聞いても情報量があって音楽性も高い。復刻版なのに“新しい音を聞かせてくれる”印象でした。

アナログプレーヤー「PMA-A100」は、同社が40年間継続しているダイレクトドライブのターンテーブル技術を踏襲したモデル。価格は30万4500円(左)。MCカートリッジ「DL-A100」は、1964年に開発されたDL-103をオリジナル・エンジニア・リファレンスモデルとして再現。同5万2500円

 結論を言いましょう。A100シリーズは限定モデルですけど、デノンとしては“限定”をとってスタンダードモデルにするべきです。生産数を限るなど、実にもったいない。そう言うほどの感動を与えてくれました。しかし、音展にデノンがいないとは、デノンもこの良い音を広めるチャンスを失っていますね。これも実にもったいないことです。

麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNの CD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。

 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作

「ホームシアターの作法」(ソフトバンク新書、2009年)——初心者以上マニア未満のAVファンへ贈る、実用的なホームシアター指南書。

「究極のテレビを創れ!」(技術評論社、2009年)——高画質への闘いを挑んだ技術者を追った「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)——音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法

「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)——身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル

「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)——「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書

「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる

「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く

「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語

「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略

「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析

「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた

「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望

「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語

「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究

「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.