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実力が試される薄型テレビ(2)――映像のダイナミックレンジ拡大とは麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2011年04月04日 13時36分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 このハイダイナミックレンジ化には、実は前哨戦もありました。ドルビー研究所が自社ブランドで発売したプロフェッショナル・モニター「PRM-4200」です。ドルビーは、カナダのベンチャー企業を買収してローカルディミング技術をライセンス販売しようとしたのですが、ちょうど国内メーカーも自社開発していたタイミングだったため、採用されませんでした。それならと自社ブランドで作ろうとマスターモニターを開発したのです。

ドルビーのプロフェッショナル・モニター「PRM-4200」

 PRM-4200は、バックライトに1500個ものRGB LED(計4500個のLED素子)を使い、デジタルシネマのダイナミックレンジを再現しています。またブラウン管やプラズマなどさまざまなディスプレイ装置をエミュレートして表示する機能も持っています。

 ソニーやシャープの試作機を見た限りでは、やはり従来の液晶モニターでは出なかった“きらめき”や明るい方向のメリハリ感が出ていました。しかし副作用もあり、絵作りは難しいようです。例えば、白を上げると明るい部分のガンマ調整が狂い、階調がなくなる方向になります。白いワイシャツはきれいに見えるのですが、その影がなくなってしまったりします。

 重要なのは、ハイダイナミックレンジ化の効果を享受でき、かつ副作用を最小限にすることでしょう。それが、ハイダイナミックレンジが液晶テレビの画質向上手段として市民権を得るのか、それとも一過性のもので終わるのかを分けると思います。

 ところで、私は最近、ある映像機器メーカーとコラボレーションをして、映像モードに通称「麻倉モード」を作りました。映画「きみに読む物語」の赤の再現性と、松田聖子さんのデビュー25周年記念ライブ「Songs」のスーパーホワイトにこだわった設定です。100%の部分は白が飛んでいるものの、画面にビビッド感を与えるでしょう。

2011年は3Dの表示方式が分裂する年

 1月のInternational CESレポートでも触れましたが、2011年は3Dの表示方式が分裂して多様化する年になりそうです。例えば昨年12月にLGエレクトロニクスがパッシブ型の偏光メガネ方式のシステムを発表しています。これは有沢製作所のXpol(エックスポール)をもとにした技術で、CESでも大々的に展示していました。

 もう1つの大きな流れは、いよいよ小型の3Dテレビが出てくることです。これはゲームの需要を意識したもの。映画を観るときの劇場感覚だけではなく、もう少し日常的に3Dを楽しみたいというニーズに応える製品です。ソニーが1月にリリースしたブラビアの「EX720/EX72Sシリーズ」とパナソニックの液晶ビエラ「DT3シリーズ」は、どちらも32V型をラインアップしています。

ソニーの「KDL-32EX720」(左)とパナソニック「TH-L32DT3」(右)

 32V型でも解像度はフルHDですから、画質的なエクスキューズは少なく、より精細感が高まるはず。サイド・バイ・サイドの3Dコンテンツを見るときなどは、むしろ小さいサイズのほうが有利でしょう。さらに今後は、32V型以下のサイズも出てくると聞いています。

 一方、大画面の製品では、3D表示の画質が改善されてきました。例えばソニーの第1世代はクロストークとともにフリッカーが問題になりました。原因は、映画BDの24Pコンテンツを48Hzで処理していたため。他社は3倍速以上の処理をしていたのですが、なぜかソニーだけは48Hzで処理していました。人間は56Hz以下だとチラツキを感じます。例えば欧州のPALは50Hzのため、60HzのNTSCに慣れたわれわれが見るとチラツキを感じますよね。ソニーは春の新製品で24Pのコンテンツを2.5倍の60Hz処理に変更し、チラツキを抑えました。

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