MDR-1000Xの音作りのコンセプトを井出氏にうかがった。ベースはプレミアムヘッドフォン「MDR-1」シリーズのコンセプトを踏襲しており、そこに最新の音楽リスニングの傾向を採り入れながら、「あらゆるジャンルの音楽を楽しく聴けるサウンド」に仕上げたという。MDR-1Aシリーズにも使われている、液晶ポリマーをベースにアルミ薄膜をコーティングした40mm口径のハイレゾ対応ドライバーは細かい所を本機専用にチューニングしている。
音を聴くとバランスが非常にニュートラルだ。無駄な色付けが抑えられていて、ディティールの再現力が高く音楽の全域がすみずみまで見渡せる。楽器の音色に自然な暖かみが感じられ、ボーカリストの声質もリアルに蘇る。音場が広く、奥行き感も鮮明だ。中低域の制動がしっかりと聴いていて、立ち上がりが鋭くリズムがビシビシと決まる。音楽の種類によっては低域の量感がパンチ力がやや物足りなく感じることもあるが、長時間の音楽リスニングにはかえってこの方が好適かもしれない。同じソニーのBluetootワイヤレスヘッドフォンである「MDR-1ABT」と比べるならば、あえてリッチな音楽性を持たせた1ABTに対して、MDR-1000Xはより原音再生を真摯(しんし)に突き詰めたヘッドフォンといえそうだ。
他社の全部入りヘッドフォンの中にはスマホアプリなどを組み合わせて音質をカスタマイズできるイコライザーを提供する製品もあるが、MDR-1000Xには同様の機能がない。ソニーの開発陣があらゆる音楽を気持ち良く鳴らせて、最高に静かな環境で楽しめるヘッドフォンを目指して作り上げた自信作なのだから、そもそも不要な機能なのかもしれないが、あえて筆者の裏技的な使いこなし方を書き添えておくのならば、アンビエントサウンドモードに切り替えると中低域の抜け感を少しアレンジすることができた。再生する音楽の種類やリスニングシーンに合わせながら工夫も楽しみたい。
本機はワイヤレスとノイキャンをそれぞれをオンにした状態だけでなく、「ワイヤレスのみ」「ノイキャンのみ」をオンにした状態が選べたり、付属のケーブルによる有線リスニングも選択できる。音のチューニングはデジタルアンプの「S-Master HX」をオンにした状態がベストに整えられているので、基本は電源を入れて使うことをオススメしたい。あとはノイズキャンセリングのオン・オフを切り替えたり、有線と無線のどちらを選んでも音質にブレがなく、常に安定したパフォーマンスを発揮してくれた。
パーソナルNCオプティマイザーやジェスチャー操作によるクイックアテンションなど、従来のヘッドフォンにない華やかなフィーチャーも盛り込んだMDR-1000Xだが、ソニーの開発陣は「音質、ノイズキャンセリング性能、装着感というヘッドフォンにとって王道の魅力で真っ向勝負したい」と口をそろえて意気込みを語っている。筆者も実機をハンドリングしながら、ノイズキャンセリング機能や音質の面など、これまでの全部入りヘッドフォンによる音楽リスニングの体験が、また一皮むけて洗練された手応えを得た。
これまでは「アウトドアで静かに音楽を楽しむためにノイズキャンセリングヘッドフォンを選ぶ」という考え方がセオリーだった。ワイヤレスリスニングの快適さも相まって、これからは「屋外だけでなく、自分の部屋など屋内でもゆったりとベストコンディションで音楽が楽しめるヘッドフォン」としてMDR-1000Xを選択肢に入れる必要がありそうだ。
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