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JASRACモデルの限界を超えて――「初音ミク」という“創作の実験”クリプトン・フューチャー・メディアに聞く(4) 最終回(2/3 ページ)

» 2008年02月26日 11時44分 公開
[岡田有花ITmedia]

個人がつながり、ありがとうを届ける

 「ピアプロ」は、「Peer Production」の略。2次利用可能な楽曲やイラストの投稿サイトだ。個人の「見たい」「見てほしい」、「聞きたい」「聞いてほしい」、「認めたい」「認められたい」という願望をつなぎ、コミュニケーションをかきたてて創作意欲を刺激し、新しい創作が次々に生まれる場を目指した。

画像 「ピアプロ」のキャッチコピーは「聞いて! 見て! 使って! 認めて! を実現するCGMエンジン」だ

 「氏名表示が必要か」「改変OKか」という最低限の著作人格権だけを指定し、2次利用(コピー)OKを前提に作品を投稿。誰かが2次利用すればコメント欄に「ありがとう」が届く。誰かに見てもらえること、使ってもらえること、「ありがとう」がもらえること――「評価されたい」という一心で作り続けるアマチュア作家にとって、何よりの報酬になる。

 評価をお金に代えて届けられる仕組みも検討していきたいという。具体的な実装は未定だが、お気に入りの作家に直接“寄付”できるような機能があれば、創作資金も援助できる。事務所も音楽出版社もJASRACも挟まらないから“中間搾取”も起きない。

 この仕組みがうまく回るとどうなるか。見知らぬアマチュア作家同士がコラボレーションし、新しい創作を生む。認め、認められることで創作意欲が増し、コンテンツが豊かになる。「経済と同じように“評価”の流通する量が増えることで、経済発展ならぬ“クリエイティブ発展”が起こると思う」

 2次創作を最大限解禁している初音ミクは、オープンソースソフト(OSS)のようなイメージだ。ミクの創作を通じて自律的につながったクリエイターが、2次利用可能な形のコンテンツを生み出し続け、それが新たな創作の起点になる。初音ミクというコンテンツの「共有財」が、ソフト業界のOSSのように、コンテンツ業界の可能性も広げていくことも願っている。

音楽検索という未決の課題

画像 10万以上の効果音を検索・試聴・購入できる「ソニックワイヤ」には、表記の揺らぎに対応した独自の検索技術を導入。例えば「パソコン」「PC」で検索しても同じ結果が出る

 音楽の「認めたい」「認められたい」をつなぐのに、必須の技術が検索だ。無数の音楽から今、欲しいものを探すにはどうすればいいか。自社で独自の音楽検索エンジンを開発してきた同社でも、検索技術の決定打がまだ見えないという。

 「音を検索する方法は、ここ10年ぐらい悩み続けている。音楽は主観で好き嫌い・印象が変わり、同じ人なのに時期をずらすと同じ音楽を聴いた印象も変わる」

 「音楽は、検索というよりも発見という感じがしっくりくるかもしれない。ユーザーが自発的に探したくなるようなアミューズメント性に富んだ発見の仕組みが面白いのかなと。セマンティックWebがヒントになるような気がしている」


“収益”ではなく“収穫”を

 ピアプロからの収入は、現在のところゼロ。「ユーザーさんはもうけている場に貢献しようと思わないだろうから」と、同社の持ち出しで運営を続ける。

画像 ピアプロではテレビ番組などとの共同企画も実施している

 当面は無償で運営するが、維持が難しくなったとき、何らかの収益化は必要になる。「収益モデルというよりも収穫モデル」――ユーザーが望む仕組みを維持し、創作を発展させることで、豊かに実った創作の“収穫“をみんなで分け合えればいいと考えている。

 例えば、クリエイターの協力を得て、質の高い作品を商品化したり、外部企業と連携したキャラクタービジネスに参加してもらったり。「当社と相手の会社だけのメリットだと面白くないから」

 ただ難しいのは、全ユーザーのコンセンサスを得た上でビジネスにできるかどうか。創作物を商品化すると「ユーザーが盛り上げてきた物でもうける気か」と快く思わない人が必ず出てくる。「みくみく」作者が「もうけに走った」と批判されてしまったように。

 「マネタイズしようとすると起きるあつれきは、CGMを阻害する要因だろう。チューニングには気を遣う」

Googleモデルの違和感

画像 YouTubeには、大手メディア企業などがスポンサーする「公式チャンネル」が多数あるが……

 不特定多数による“P2P創作”が盛り上がる中で、コストをかけたプロよるクライアント−サーバ型音楽ビジネスが崩れ始めている。楽曲ファイルが携帯サイトの掲示板で広がり、YouTubeやニコニコ動画に商用動画が無断で掲載される。誰もがコピーし、誰もがカジュアルに発信できる時代に、「複製権」を固めて守り、コピーから対価を得るという従来型のビジネスが、立ちゆかなくなってきた。

 無断コピーが避けられないのならいっそのこと、コンテンツは無料でばらまき、広告から収益を得ればいいのではないか。GoolgeやYouTubeが提案するビジネスモデルは、コンテンツのオープン化を求めるが、伊藤社長はこの風潮に違和感を覚えている。

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