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» 2008年07月10日 19時33分 UPDATE

“iPod課金”議論、振り出しに 権利者とJEITA、小委員会で激論

「パンドラの箱を開けちゃった感じだ」――「ダビング10」をめぐる曲折を経て、権利者側とメーカー側の主張が鋭く対立。私的録音録画補償金に関する議論が振り出しに戻った。

[岡田有花,ITmedia]
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 私的録音録画補償金について議論している文化審議会の私的録音録画小委員会が7月11日、2カ月ぶりに開かれた。「DRM付きコンテンツに補償金は不要」とする電子情報技術産業協会(JEITA)の委員と、「DRMの強度によっては補償金が必要。ダビング10機器は補償金の対象とすべき」とする権利者側の委員が真っ向から対立。議論が紛糾した。

 文化庁は、夏までに委員間の意見を調整し、秋の臨時国会への著作権法改正案提出を目指していたが、合意の見通しはまったく立たない状態に。事務局を務める文化庁の川瀬真・著作物流通推進室長は「議論が2年前の小委員会スタート時に戻った。正直言って困っている」ともらした。

ダビング10をはさんだ会合

 前回の小委員会(今期第2回、5月8日)で文化庁は、補償金を段階的に縮小することを前提に、暫定的措置としてiPodやHDDレコーダーなど「記録媒体を内蔵した一体型機器」を、補償金の課金対象とする制度改正案を提示し、各委員に理解を求めていた。

 権利者側の委員はこの案を容認したが、JEITAなどメーカー側の委員が「補償金の課金対象が際限なく増える恐れがある」とし、文化庁に対してさらなる説明を求めていた。

 5月29日に行われる予定だった第3回の小委員会は「機器メーカーの意見が保留されたため」(川瀬室長)延期。その後、文部科学省と経済産業省が、Blu-ray Disc(BD)とBD録画機に補償金を課すことで合意し、7月4日にダビング10がスタートした。

 一部ではBDに補償金を課金する代わりに、iPodやHDDレコーダーなどへの課金案を取り下げるという報道もあったが、文化庁はこれを否定。中山信弘主査は「小委員会では、補償金制度の廃止を含めて抜本的に議論する」とし、小委員会の役割はまだ終わっていないと話した。

「JEITAは後出しだ」と権利者

 JEITAは前回の小委員会で、文化庁案に対して「補償金縮小への道筋が明らかでない」「PCのような汎用機器に課金対象が拡大する恐れが払拭できない」といった疑問をぶつけていた。

 文化庁は今回、この疑問に18ページにわたる回答資料を用意。だがJEITAは「まだ補償金拡大への疑念がある」として、「ダビング10機器を含め、DRMがかかっているコンテンツに補償金支払いは不要なはず」「コピーでどの程度権利者に経済的不利益が出ているかが疑問」「録音・録画機器はプレイスシフト・タイムシフト目的が大半。補償が必要な使い方はほとんどされていない」などと、消費者アンケートの結果も紹介しながら従来からの主張を繰り返した。

 「DRM付きコンテンツはすべて補償金不要というなら、ダビング10を決める際、メーカー側の委員はなぜ『ダビング10には対価の還元が不要』と主張しなかったのか。それでは後出しじゃないか。そうと分かっていれば、ダビングゼロを主張していた」(実演家著作隣接権センターの椎名和夫委員)――権利者側はJEITAの態度を激しく批判する。

 「メーカーは権利者のコンテンツを利用し、録画したいという消費者の欲求を利用して機器や記録媒体を売っている。権利者に対価を還元していいのではないのか。アンフェアだ」(日本映画製作者連盟の華頂尚隆委員)とも主張。「なぜ権利者側が一方的に我慢しなくてはならないのか。フリーライドしようとしているメーカーを許すわけにはいかない」(オブザーバー参加した日本音楽作家団体協議会顧問の野方英樹氏)と語気を強めた。

 ダビング10について議論する情報通信審議会(総務相の諮問機関)には、JEITAは直接関わっておらず、JEITA加盟社から委員が参加している。JEITAの長谷川英一委員は「総務省の議論では、対価の還元方法は補償金だけではないという認識だったのだろう」とした上で、「補償金を支払っているのはユーザー。メーカーと権利者との間でファアとかフェアじゃないというのは違うのではないか」と指摘した。

 主婦連合会の河村真紀子委員は「権利者の意見は『補償金はメーカーの利益から持ってこい』と言っているのと同じ。消費者を外し、直にバトルして」と要望。椎名委員は「補償金の支払義務者をメーカーとする方向で検討したほうがいいのではないかと考えている」と話した。

 中山主査が「わたしも総務省の議論には参加しておらず、総務省の委員会で言った言わないという議論は困る。この委員会らしい話をしてほしい」と取りなす場面もあった。

消費者が蚊帳の外

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介委員は「権利者は時代錯誤的に、映画は映画館で、音楽はステレオセットでと楽しむべきと主張しているように感じた」とし、「コピーネバーにしたいならして下さい。映画はデジタル放送に売らなければいい。だがそうした場合、困るのはあなたがた権利者ですよと強く言いたい。そもそも現実にそぐわない」と話す。

 「これまでの議論を見ていると、結局、コンテンツを消費するには不便な環境になりそうだし、ダビング10は省庁間の合意で決まり、消費者は蚊帳の外。何のために議論しているのだろうと感じている」と徒労感を吐露。「ダビング10は消費者にとってそんなに便利でないのにしぶしぶ妥協した。補償金とDRMの関係を根本から考え直すべきなのに、ダビング10関連で議論がわい小化され、結論が見えないことに不安を覚えている」と述べた。

「最初の議論に戻っても意味がない」が……

 権利者とJEITAの議論が振り出しに戻っている様子を懸念する意見も複数の委員から出た。「2年前の原点に立ち返って議論することはやめたほうがいいと思う。双方に不満があるのは分かりきった話。このあたりで妥協するしかないのでは」(情報セキュリティ大学院大学教授の苗村憲司委員)

 こういった意見に対して津田委員は「妥協するということは、お互いに譲る部分があってということだろう。だが消費者的には、どこも譲られた部分がないと思う」と反発した。

 それぞれの委員が意見を主張し、議論は予定の2時間を超えてヒートアップ。中山主査が「今日はパンドラの箱を開けちゃった感じ。エンドレスになりそう」と予定時間を10分延長したところで打ち切った。

「困った」と文化庁

 文化庁の川瀬室長は、暗礁に乗り上げた議論を見て「困った。いったいどうすればいいのか」と頭を抱える。

 委員間の意見を調整し、秋の臨時国会までに法改正案を提出する計画だったが困難な情勢に。来年1月に報告書を提出する計画で、次回の小委員会は秋までには開きたい考えだが、見通しは全く立っていない。

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