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「初音ミク」発売からもうすぐ1年 開発者が語る、これまでとこれから

» 2008年07月23日 12時31分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「初音ミク」が発売されてから、8月末で1年になる。ブームは落ち着いてきたものの熱心なユーザーは多く、新規ユーザーもコンスタントに増えている。開発したクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉さんは「初音ミクのイメージを固定させず、新規ユーザーにも1年前と同じぐらいの可能性を残したい」と話す。

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 初音ミクは、ヤマハの「VOCALOID2」を使った歌声合成ソフト「キャラクターボーカルシリーズ」第1弾製品として、同社が昨年8月31日に発売し、これまでに累計で約4万本出荷した。今年2〜3月ごろに売り上げは落ち着いたというが、今でも1週間に300本程度売れているという。第2弾の「鏡音リン・レン」(昨年12月発売)は累計約2万本を出荷。ミクやリン・レン購入者のうち、実際に楽曲制作に利用しているアクティブユーザーは1万〜1万5000人程度とみている。

 通常の楽曲制作ソフトの出荷数は300〜600本程度というから、これはすさまじいヒットだ。その大きな要因は、「ニコニコ動画」にミクを使った楽曲が投稿され、盛り上がっていったこと。「ニコニコ動画でコンテンツを見たユーザーが興味を持ち、ユーザーを呼んでいった」――佐々木さんは7月22に開かれたOGCシンポジウムで講演し、こう話した。

 ミクを成長させたのはユーザーだと佐々木さんは繰り返す。ユーザーが曲を作り、絵を描き、アニメを発表し、派生キャラを作り、ミクの世界を広げていった。「ユーザーの空気感や期待との折り合いを付けながら、発展させていきたい」

ユーザーのおかげで、エロ要素がメインストリームでなくなった

画像 はちゅねミク(右)はフィギュアにもなった

 ミク制作時に最も心配していたのは、ミクの声がアダルトコンテンツに利用され、広まってしまわないかということだった。「自由に使えるツールは、人間にはお願いできないことをさせるために使われてしまうの傾向がある。そうなってしまっては将来の発展に陰を落とすし、声優さんにも迷惑がかかる」

 その心配は杞憂に終わった。「当社から働きかけたわけではないが、ユーザーが、自分たちのイメージと異なるものを淘汰していく傾向がある。ギャグやネタっぽいコンテンツ、『はちゅねみく』などが登場してメインストリームになり、エロ要素はアングラ化した。ほっとしている」

 初音ミクの歌は人間の歌と違って魂がこもっていないと批判されることもある。「初音ミクやVOCALOIDはいわば“のっぺらぼう”。感情はミクの“外部”にあるのではないか。みんながディスプレイ越しにキャラクターを共有できるのは、VOCALOIDならでは。VOCALOIDにしかできないことを進めていきたい」

「ピアプロ」で作品のアウトプットの可能性を感じてほしい

画像 ピアプロ

 同社は、初音ミクなどVOCALOID関連のコンテンツを投稿できる「ピアプロ」を昨年12月に開設。10万会員を突破した。

 テレビ局や出版社、フィギュアメーカーなどさまざま企業とのコラボレーションを展開。ユーザーが描いた絵でフィギュアを作ったり、ユーザーのイラストを書籍に載せたりといった企画を行っている。

 「ユーザーコミュニティーの空気を考えた上で、ユーザーさんが欲しいと思ったものを商品化していきたい。ユーザーさんに、自分が作った物が商品化されることに慣れてほしいと思っている。ネットを通じて、作品のアウトプットの可能性を感じてもらえれば」

 現在ピアプロではVOCALOID関連のコンテンツしか投稿できないが、来年4月ごろからは「さらにもう一歩進んだ実験」を進めていくという。ピアプロと個人制作のCDやゲームなどを結びつける仕組みなどを検討。「ユーザーが対価を得られるような仕組みも考えていきたい」

キャラクターの制限をなくすことで可能性を広げたい

 初音ミクの公式設定は、名前と身長、体重、数枚のイラストくらいで、あまりガチガチには固めていない。「キャラクターに制限がなかったことが、ユーザーの創作の制限をなくしてブームにつながったのでは」

画像 佐々木さん

 これからもイメージを固定せず、ユーザーが自由に発展させられるキャラクターとして育てていきたいという。「今から入ってくる人にも、ミクを1年前から始めた人と同じぐらいの可能性を残しておきたい。公式で『こういうもの』とイメージ付けたりして可能性の枝葉を切ることなく、イメージを散らしていきたい」

 ミクを使った商品の展開などは「もうちょっと焦ってやらなくちゃダメかなと思うこともあるが、ユーザーの作っている空気感を壊したくない」という。

 今後は、VOCALOID製品を通じ、さらに多くのライトユーザーを音楽の世界に呼び込んでいきたいとし、メディアパワーを使ってより多くの人にアプローチする手段も検討しているという。

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