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ツクモ破たんの波をかぶった電脳メイドさん 「ARis」のベンチャー「高い授業料払った」

» 2008年11月06日 17時10分 公開
[宮本真希,ITmedia]
画像 電脳フィギュア ARis

 「秋葉原の老舗・ツクモが民事再生申し立て」──衝撃のニュースの陰で、九十九電機(ツクモ)と取引していたあるベンチャーが直撃を受けていた。

 「110億円」というツクモの負債総額に比べれば損害額は少額かもしれないが、ベンチャーにとっては死活問題。予期せぬトラブルに見舞われた経営者は、それでも「高い授業料を払ったと思ってポジティブに頑張っていく」と前向きだ。

 そのベンチャーとは、拡張現実(AR)技術による「電脳フィギュア ARis」を開発した芸者東京エンターテインメント(GTE)。「ARisを取り扱いたい」――「ワイヤレスジャパン2008」に出展したARisを見て真っ先に声をかけてきたのがツクモだったという。

 「秋葉原の象徴的な店舗でARisを展開できればいい」。GTEの田中泰生社長はそう思って取引を決め、出荷数の約1割に当たる550個のARisを納品した。「イラスト集がなければAmazon.co.jpなどと競争できない」と言われ、特典も付けた。

 問屋を通さずに直接取引にしたのは「直接情報がとれる店舗とつながりをもつことで、ユーザーの声をダイレクトに見たり聞いたりしたいと思った」からだ。

 だがそれが「裏目に出た形」になる。代金約400万円が支払われる前に、ツクモは民事再生法の適用を申請した。

Twitterでニュース知った

 GTEにとってツクモは、ほかの店より少しつながりが深い。ARisの発売記念イベントを行ったのもツクモ本店II。ツクモで購入したBTOのPCでARisを開発していたこともあり「親近感を持っていた」という。

 「カセットテープにゲームを入れた商品をツクモに買い取ってもらって販売した――こんなPC・ゲーム業界黎明期の“神話”を、業界の重鎮たちから何度も聞かされたことがあった。ARisも同じ場所から始めたいというロマンチックな思いがあった」

 掛け率や支払いサイトについて「大幅な譲歩をしてもらった」こともツクモでの販売を決めた理由の1つだったという。

画像 ツクモ限定のARisイラスト集

 社長は「小売業の変化の中で、経営状態が大変だということは知っていたが……私が甘かったです」と反省しつつも、「今回は高い授業料を払ったと思って、ポジティブに頑張っていく」と前向きだ。

 「零細ベンチャーにとって、約400万円の売上債権が事実上“ちゃら”になってしまうのは厳しい」という事実もある。ただ「Amazon.co.jpなどほかの取引先での取扱量が多いこともあり、会社自体に問題はない」という。

「これからもクールなアキバで」

 田中社長は、ツクモが民事再生法の適用を申請したというニュースを10月30日の午前11時ごろに知った。Twitterでニュースを知ったGTEの社員から連絡があったという。その後、ツクモの本社ビルまで駆けつけた

 直近に納入した50本のARisの納品書を交わす前の破たん。返却を迫ったが「できない」と言われ、50人のARisが一時“迷子状態”になっていた。だがその後、ARisがツクモ本店に並んでいるのを見つけたという。

 秋葉原ではPC-Successや高速電脳など、PCショップの閉店が相次いでいる。「大型店の出現やPCの低価格化の波で、秋葉原のPCショップが大変な状況に置かれているのは知っているが、先人が創ってきた文化の上にあぐらをかいて、その結果うまくいっていないお店も多いような気がする」と田中社長は言う。

 「われわれのようなエンタメをやっているベンチャーから見れば、秋葉原にリアルな店舗を持っていることは非常にアドバンテージがあるはずなのに。ポテンシャルを生かし切らずもったいない。大型量販店にはできないような、『すごい、こんなの初めて』というような店舗企画をすれば、まだまだポテンシャルはあると思う」

 「秋葉原は世界に誇るハイテクやオタク文化の発信基地。伝統と革新の組み合わせで、どんどんお店が実験的な取り組みをしてくれればと思う。これからもクールなアキハバラでいてほしい」

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