米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは、先週のGartner Symposium/ITxpoで非常に難しい質問を投げ掛けられた。「あなたの会社にとって最も危険な賭けとは何か」という質問だ。
「Windowsの次期リリースだ」。質問した米Gartnerのアナリストに同氏はそう答えた。
最初、この答えは奇妙に感じられた。というのも、Microsoftの最新のOSリリースであるWindows 7は、発売後12カ月で2億4000万本以上のライセンスが販売されたからだ。米調査会社Net Applicationsによると、OS市場におけるWindows 7のシェアは約17.10%だ。一方、Windows XPのシェアは60.03%、Windows Vistaのシェアは13.35%となっている。
しかしデスクトップベースのWindows製品ラインは今後、クラウド普及の影響で大きな困難に直面する可能性がある。クラウドでは、ユーザーのローカルHDDではなくネット上のアプリケーションが主に利用されるのに加え、携帯端末も盛んに利用される。
Microsoftがチーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オジー氏の退社を発表してからしばらくして、同氏は10月28日付のブログ記事で、来るべき“転換点”について述べた。これは、クラウドに接続された端末が将来の主流になるというものだ。同氏によると、これらの端末は、従来のデスクトップPCやノートPCとは大きく異なる形態になるという。
「Windows AzureやBingを投入するなど、Microsoftはこのところクラウド分野で前進しているものの、幾つかの分野で不利な立場に立たされている」と同氏は指摘する。「競合企業の製品、そして新たな利用形態の急速な発展と進化には目を見張るばかりだ。当社は早くから明確なビジョンを打ち出してきたが、モバイルエクスペリエンス、ハードウェアとソフトウェアとサービスのシームレスな融合、ソーシャルネットワーキング、インターネットを中心としたソーシャルコミュニケーションの各分野において競合企業の実行力が当社のそれを上回った」
さらにオジー氏は少し過去に目を転じ、Microsoftがどのようにしてこれまでのコンピューティングパラダイムの大部分を支配するに至ったかを説明した。
「Windowsはパーソナルコンピュータで最初のグラフィカルUI(ユーザーインタフェース)を搭載したわけではないが、この製品がやがて全世界で10億人以上の人々にとってコンピューティングとコミュニケーションを民主化したのは明らかだ」と同氏は記している。「WindowsとOfficeは大きく成長し、PCを定義するまでになった。両製品はPCの基本コンセプトと利用形態を確立し、やがてそれは非常に多くの人々にとって確固たるものとなった」
しかしこれはPCが中心だった世界の話だ。オジー氏の考えでは、その時代は急速に過ぎ去ろうとしている。
「この転換期を迎えた今、コンピューティングとコミュニケーションの分野で起きたさまざまな出来事を見れば、われわれは全社一丸となって、競合企業および顧客が最終目標としていることを実行することが重要だ。目を閉じて、PC後の世界がどんなふうになっているのか現実的なイメージを思い浮かべる必要がある」と同氏は語る。その数パラグラフ下には「(1)すべての人々を結び付け、人々の指示に従うクラウドベースの持続的なサービスと(2)これらのクラウドベースのサービスとのインタラクションを可能にする接続されたアプライアンス型端末を中心とする世界に向かってわれわれは進んでいる」と記されている。
「このため、Microsoftは現在の考え方を大幅に修正する必要がある」とオジー氏は指摘する。「アプリ、サービス、端末を非常に高いレベルで統合することが求められている。それを実現するには、ユーザーエクスペリエンス、インタラクションモデル、ユーザーのデータとプライバシーのモデル、ポリシーと管理のモデル、プログラミングとアプリケーションのモデルなどにおけるイノベーションが必要だ」
オジー氏はチーフソフトウェアアーキテクト(CSA)として、Microsoftがクラウド志向型の企業モデルの採用に向かう中で重要な役割を果たしてきた。同氏の手掛けたプロジェクトの1つであるFUSE Labsは、ソーシャル接続、リアルタイムエクスペリエンス、リッチメディアに関連したソフトウェアの開発を専門とする部門だ。
「今日のPC、携帯電話、パッド型端末はまだ始まりにすぎない。信じられないようなイノベーションの時代が今後数十年にわたって続き、あらゆる種類の“接続されたコンパニオン”が登場し、人々はこれらを身に着けたり、持ち歩いたり、机の上で使ったり、壁に掛けたりするなど、人々を取り巻くあらゆる環境で利用するようになるだろう」とオジー氏はブログに記している。「これは新たな日の夜明けだ。持続的なサービスと接続された端末の世界に、今、太陽が昇ったのだ」
そんな未来が現実になれば、Windowsは新たなパラダイムに対応するために次のバージョンで大きく転換する必要があるだろう。6月に「Microsoft Journal」というWebサイトに、「Windows 8」のアイデアを詳細に説明したスライドが掲載された。同サイトによると、このスライドはMicrosoftから流出したとされている。スライドでは、超高速起動、顔認識技術を使ったログイン、アプリをダウンロードできる「Microsoft Store」、クラウドとの本格的連係などがWindows 8に搭載予定の新機能として紹介されていた。
「Windowsアカウントはクラウドに連係する可能性がある」とスライドには記されており、その下に「ローミング設定と環境設定はPCと端末との間でユーザーに関連付けられる」と書かれていた。
2009年11月に「Microsoft Kitchen」というWebサイトが掲載したロードマップのスライドには、次期Windows ServerとWindows 8が2012年にリリースされる予定が示されていた。このスライドは、2009年にロサンゼルスで開催されたProfessional Developers ConferenceでMicrosoftが披露したものだとされている。さらに「Winrumors」ブログが10月24日(現地時間)、Microsoftオランダ支社のニュースサイトの記事を転載したことで、これらのうわさが再び活発化した。同記事によると、Windowsの次期版は2年以内に登場するようだ。
「Microsoftでは、Windowsの次期バージョンの開発を順調に進めている」とWinrumorsの記事に書かれていたらしい(この記事はその後、オランダのニュースサイトから削除された)。「しかし『Windows 8が市場に出るまでには2年ほどかかるだろう」(同記事)
このうわさの真偽がどうであれ、Windowsの次期バージョンは、Microsoftがオジー氏の指摘をどれだけ真剣に受け止めたのか、そして最も危険な賭けに関するバルマー氏の発言が現実になるかどうかを示すものとなるだろう。
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