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「クラウドにローカルはない」――丸山先生が杜の都で復興にエール

» 2011年10月11日 16時30分 公開
[石森将文,ITmedia]

 丸山教授は東日本大震災による被害状況を見て「ITは実は無力だったのではないか」と感じたという。だが同時に、「今後、国民の命を救うものになるだろう」という矛盾した考えを抱いたと話す。既存IT技術やネットワークメディアの限界と、新しいIT、新しいネットワーク技術が持つ可能性が、そのコントラストの一因になっているようだ。

 丸山教授は、2005年から2010年の間にトランジスタの数が15倍になったという調査結果を紹介する。これだけでも驚くべき数字だが、同じ調査では、2010からの5年間でさらに200倍になると予測しているという。「それだけ速く、世の中が変化してるということ」(丸山教授)

 既に現在、「70年代に生まれたPCを起点とするハードウェアの進化と、80年代から実用化されたネットワーク、そしてインターネットの進化が交わる形で大きな変化が生まれている」と丸山教授は知見を示す。「それはモバイル(クラウドデバイス)とクラウドの連携、そして融合だ」 

ハードウェアとネットワークそれぞれの進化がクラウドとして交わる(クリックで拡大)

 主要なインターネット企業も、この変化の流れに合致する形で登場してきた。PCの隆盛期には米Microsoftや米Apple Computer、そして米Sun Microsystems、米Oracleという企業が、やがてインターネット時代が訪れると米Yahoo!や米Amazon.com、米Googleが頭角を現した。

 そしてクラウドとクラウドデバイスが力を持ちつつある現在、米Facebookや米TwitterがITビジネスの主要プレイヤーとして舞台に上っている。「変化が起こると、新しいIT企業が生まれる。同時に世界中のIT企業が、クラウドとクラウドデバイスの分野に参入しつつある」

 Webメールなどが既に何年も前から実用化されているように「クラウドサービス自体は、既にコンシューマー分野で先行している」と丸山教授は指摘する。「これがコンシューマーライゼーションというトレンドだ。この流れに乗れなかった企業は存在できなくなるだろう。例えばSunは、結局は企業にサーバを売るというビジネスから脱却できず、Oracleに買収されることとなった」

 コンシューマー化が進むITにおいては「クラウドデバイスが中心的な役割を果たす」(丸山教授)という。「実は、世界においてインターネットに接続しているのは5人のうち1人に過ぎない。他方、携帯電話は70%近い普及率を示す。“携帯かインターネットか?”と問われたら携帯を選ぶ人が多い中で、そのギャップを埋められるのはインターネット接続できるモバイル、つまりスマートフォンだ」

 「20世紀をテレビやラジオ、新聞といったマスメディアの時代とするならば、21世紀はFacebookのようなパーソナルメディアの時代になる」と丸山教授は話す。「これからの10年は、既存のメディア産業にとって激動の時代になるだろう」

 クラウドが新しいメディアの統合エンジンになるならば、クラウドデバイスがそのクライアントになるだろうというのが、丸山教授の指摘だ。「2年半ほど前に仙台で講演した際は、まだAndroidは実機もなく、海のものとも山のものとも付かない状態だった。だが今や、日本は世界有数のAndroid大国となっている」

 丸山教授はAndroid躍進の背景として、オープンソースであることと、(ソーシャルメディアなど)新しいネットワークメディアによるコミュニケーションとの親和性の高さを挙げる。「これは技術の話ではなく、大きな歴史の潮流となっている」

 新しいネットワークメディアが立ち上がりつつある現在、個人の志向にある特徴が見られるという。「個人と個人、あるいは個人とグループ間の自由なコミュニケーションと、個人の豊かな自由時間を求めるようになった」

 社会的にもこの流れが顕在化しつつある。例えば2011年9月に行われたベルリン市議選では、海賊党が15議席を獲得するという躍進を遂げた。彼らの主張は「(新しいネットワーク社会において)現行の著作権法は絶望的に時代遅れ」「個人のプライバシーはいかなる場合でも堅持されるべき」「インターネットは言論の自由の手段である」というものだ。

 丸山教授はカーネギーメロン大学による興味深い調査を紹介する。2003年に人間がソリティアで遊んだ時間は、実にのべ90億時間にも達するという。対してエンパイアステートビルの建設に要した時間はのべ700万時間で、パナマ運河の建設でさえ、のべ2000万時間に過ぎない。「それだけ人間は、豊かでパーソナルな時間を過ごすことを好むということ。これをコンシューマー化されたITが支えている」

 「コンシューマーライゼーションによって、ITは従来フラッグシップとされたエンタープライズの分野に限らず、生活やインフラなど人間社会のあらゆるところで利用される。エンタープライズは想定的にパイが小さくなるだろう」(丸山教授)

クラウドにローカルはない

 ITのコンシューマー化が進むにつれ、高価な機材や大規模な人的組織がないとサービスやアプリケーションが開発できない、ということはなくなりつつある。「大企業だからといって有利な条件があるわけではない」(丸山教授)

 PageRank、AdWordsに基づくGoogleの広告モデルが確立されてから10年が経とうとしている。「果たして今後も有効だろうか?」と丸山教授は問いかける。

 新しいネットワークメディアが立ち上がり、クラウドデバイスの普及が急速に進むのと合わせ、もっとコミュニケーションしたい、という個人の欲求がどんどん拡大している。同時にAppleやMicrosoft、Amazonといった既存のプレイヤーが、個人のニーズに応えるべく、ビジネスモデルを新しいネットワーク産業にシフトしつつある。

 「日本には有利な条件がいくつもある」と丸山教授は指摘する。「クラウドデバイスが世界一普及しており、電子マネーの利用実績も極めて高い。また高速で安定したネットワークインフラも整備されている」

 「そして東北にも若い優秀な技術者が育っている。クラウドにローカルはない。クラウドとクラウドデバイスを通じて復興を牽引するビジネスを起こしてほしい」

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