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そろそろ「ガンダムUC」という“現象”に気がついたほうがいいのかも部屋とディスプレイとわたし(3/3 ページ)

» 2012年09月04日 15時00分 公開
[堀田純司,ITmedia]
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宇宙世紀の円環

 そうしたマニアのたわごとはさておき、「ガンダムUC」はこれまで製作されてきた続編と狙いが異なるようです。この作品は、多様な世界を生み出してきた宇宙世紀の歴史を、初作「機動戦士ガンダム」をも含めて、まるごと包含してしまおうとする物語。

 「ガンダム」の世界観、宇宙世紀の歴史は、地球を中心にした共同体の秩序を重視する人々と、宇宙に進出した人類の個人の可能性(それはニュータイプへと至る)を信じようとする人々の、闘争の歴史でした。

 最初は悪意だけではなかったはずだった。そこに善意もあったはずなのですが、悲しい事件の積み重ねを経て、やがて巨大な憎しみの渦をまき、両者の争いは解決しようのないほど複雑にからみあった、憎しみの連鎖を延々とつむぐことになって行きます。

 この戦いの円環を誰も打ち砕くことができず、むしろ「この円環の中で人々があがく姿を描くことこそがガンダム」という感じすらありました。

 憎しみの連鎖を断ち切るためには、地球環境を破壊するしかないと考え、地球に小惑星を落とし、戦いの円環そのものを破壊しようとしたシャアですら、その決意をつらぬくことはできませんでした。

 しかし「ガンダムUC」では、主人公のバナージ・リンクスは、白い巨人ユニコーン・ガンダムと、さまざまな立場で苦闘する大人たちに出会い、宇宙世紀100年にわたる憎しみの連鎖を受け止め、戦いの円環を閉じようとします。よくもまあ、このようなテーマに挑んだものだと、製作者たちの腹のくくりように呆れてしまいます。

 作中、「ラプラスの箱」をめぐる謀略から、封印されてきた時間が再び動き始めるのですが、おそらくそれは1979年の『機動戦士ガンダム』が押し開いた可能性を、再び見据えようとする現実の時間にも重なっていて、正直、「ふつうに面白いんでしょ。じゃあ見るのは全部完結してからでいいや」と考えていた自分でも、先に見ておいてよかったと思います。「UC」という現象を最後まで見届け、完結したときには「俺は前から観てたけどさ」と自慢できそうです。

 しかし考えてみれば、「機動戦士ガンダム」の当時、スタッフたちはみんな30代。いつの間にか、見てるこちらはその年代を越えてしまった訳ですが「ジオン・ダイクンの遺児として帰還したら、否応なく反乱の首魁として祭り上げられることに、シャアほど明敏な男が気がついてなかったはずはない。それなのになぜ」とか、今でも真剣に考えてしまう、魅力的な宇宙世紀の世界。

 このまま行くと、70歳になっても「シャアは戦争生き残りの戦士たちに“死に場所”をつくろうとしたのじゃ」などと飲み屋で語っていそうです。その時はどうぞ話し相手になってやってください。

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堀田純司 1969年大阪府生まれ、作家。著書に「僕とツンデレとハイデガー」「人とロボットの秘密」などがある。「ガンダム」関連では「ガンダム者〜ガンダムをつくった男たち〜」というインタビュー集を企画、クリエーターたちに取材している。講談社とキングレコードが刊行する電子雑誌「BOX-AiR」では、新人賞審査員も務める。Twitter「@h_taj


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