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偉大であり続けるのは難しい──“ジョブズ後”のAppleは「光らなくなった」か 「沈みゆく帝国」著者語る(1/5 ページ)

» 2014年07月24日 12時10分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 岩谷氏

 スティーブ・ジョブズ亡き後のAppleは偉大な企業でいられるか――約4年、200人以上に取材を重ねて“ジョブズ後”のAppleを描いた「沈みゆく帝国」(日経BP社、原題:Haunted Empire)がこのほど刊行され、著者で元ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)記者のケイン岩谷ゆかり氏が来日した。

 岩谷氏はWSJでAppleを担当し、2009年にはジョブズ氏の肝臓移植をスクープしたことなどで知られる。「沈みゆく帝国」は今年3月に米国で出版され、Appleのティム・クックCEOが「私がこれまで読んできたAppleについての他の本と同様にナンセンス」などと公式コメントを出したほどのインパクトがあった。

 このほどWSJ日本版編集長・小野由美子氏との対談イベントが行われ、同書を書いたきっかけや取材の苦労、今後のクックCEOへの期待などが語られた(以下、聞き手は小野氏)。

当初は「Appleの成功」がテーマだった

――本を書いたきっかけは。

 ジョブズが亡くなる前の最後の3年間、WSJでAppleを担当していましたが、新聞記事は長さが限られるので、長い・深いものが書きたいと本を書き始めました。最初はAppleが絶頂期にどう成功したかをストーリーにしようと思っていたんです。スティーブがすべてやったと思われていますが、裏にチームがいて、それがどういう人なのかを書きたいと。

 ですが取材を始めるころにスティーブが亡くなり、その後ウォルター・アイザックソンによる伝記「ステイーブ・ジョブズ」が出たので、Appleの過去に関するみんなの興味が満たされた気がしました。今みんなが知りたいのは、「これからのAppleがどうなるか」ではないかと気づき、方向を変えました。

ジョブズの肝臓移植、スクープの裏側

――2009年6月、岩谷さんはジョブズの肝臓移植をスクープしましたね。

 08年9月ごろApple担当記者になり、WWDCでスティーブがやせた姿で出てきました。彼がどうしたのかを掘り出せという命令があり、すごいプレッシャーの中取材しました。やせた理由はスティーブもAppleもしゃべらず、みんなが追っており、私も取材の網を張っていました。

 09年、ニュースを出す1週間ぐらい前に情報が入りました。こういう(健康状態に関する深刻な)ニュースは絶対に間違えられないので週末も情報を追い、WSJ中の記者に手伝ってもらい、直前まで出すか出さないか、社内で話し合いました。確信はありましたが万一のこともあるし、他紙に抜かれると大変。出そうと決断したのは「iPhone 3GS」の発売日だった金曜日の夜。土曜日の朝刊の一面を独占して掲載しました。

 3GSは予想ほど売れず、「3GSからみんなの気をそらすために、Appleがジョブズの肝臓移植手術をリークしたのでは」とブログなどにも書かれましたが、そんなやさしい話ではなかった。いまだにライバル紙に「あの週末は働かされた」と言われていますね。

 人間としては(病気などプライベートを)あまりほじくりたくはない。でも記者としてはやらないといけない。Appleを担当していた記者はみんなすごく悩んだと思います。ある時、「スティーブは、自分にスポットライトが当たるように仕向けて良いときだけ目立とうとし、悪い時は隠れようとするが、それは都合が良すぎるのでは」と言われ、だいぶ楽になりました。

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