まだまだ疑問がある。テレビでの配信も可能な動画サイト(中国ではテレビでのネット動画配信は広電総局という部署による許可が必要)が正規版動画の許諾を得て配信ライセンスを買うようになっており、複数のサイトが競っている状況。実際にはどんなコンテンツが見られるのか。中国では日本のアニメが人気だが、どんなタイトルが見られるのか。
また昨年には「TVOS 1.0」というSTB(セットトップボックス)やスマートテレビ向けに中国政府が開発した、AndroidベースのOSの搭載義務化があった。同OS搭載機では自由に動画配信アプリをインストールできず、お決まりのアプリストアからはお決まりのアプリしかインストールできない(この結果、同OSがインストールされていなかったモデルは、昨年の秋を境にスマートテレビがただのテレビとなった)。
店頭のテレビにはこのOSが搭載されているので、何のコンテンツが入っているか余計に気になるところだ。だからこそ伝統的なテレビメーカーのスマートテレビより、動画企業によるスマートテレビのほうがコンテンツが充実していていいのではないか、と思った。
ところが店員は「個人的にだけど」と前置きした上で「こっそりアプリをインストールしますから大丈夫ですよ。リアル店舗の強みです」と話す。「LinuxやDOSをプリインストールしたゲーミングPC」に店が海賊版Windowsをインストールするがごとくで、「非常に有用」な動画視聴アプリをスマートテレビにインストールしてくれるというわけだ。まさに「上に政策あれば、下に対策あり」である。
TVOSの強制インストールでそれまでの高価なスマートテレビがただのテレビに、STBが(まともにつかえばだが)タダの箱に成り果てたものの、ネット論壇では不満がほとんど出なかったし、スマートテレビが順調に売れ続けた裏にはこんな事情があったのだ。
これが当たり前なら、ハイスペックな「ゲーミングPC」がLinuxやDOSを搭載して売られているように、スマートテレビにインストールされるアプリや提携動画サイトにテレビメーカーがこだわらなくなるのもうなずける(実際qqtvのスマートテレビ機能はまだマシなほうで、伝統的なテレビメーカーのそれは手抜きのように思える)。
動画サイトが正規ライセンスを独占購入して、差別化による強みを打ち出した上で派生製品を出す、という戦略も無意味であるようにも思える。あるサイトが人気コンテンツを押さえたとして、ユーザー側からみれば、そのサイトにとどまり続ける必要はないからだ。中国の配信側のコンテンツビジネスには、魔物がなおも潜んでいる。
かくして翌日昼、蘇寧電器の運搬舞台が我が家にpptvの55インチ製品が届き、物理的にセットアップした後、夕方に蘇寧電器のスタッフがお忍びでやってきて、自身のUSBメモリをテレビに挿し、動画サイトのコンテンツが見られるアプリをインストールしてくれた。動画サイトで配信されている様々なコンテンツが1つのアプリで視聴できるようになり、やっと中国人的なスマートテレビライフがはじまった。
11月11日のEC祭り「双十一」は、32インチや40インチクラスの置き換え需要で50インチ以上のテレビが売れるだろう。ではどんなテレビが売れるのか。ここで述べたような背景もあり、対応コンテンツやアプリは関係なく、PCやスマホ同様、スペックと価格の安さという、コストパフォーマンスだけが注目されそうだ。
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