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VALUで価格つり上げ→全株売却 YouTuberヒカル氏に批判 全株買い戻しへ

» 2017年08月17日 11時35分 公開
[岡田有花ITmedia]

 個人が「VA」と呼ばれる模擬株式を発行し、個人から資金を調達できるサービス「VALU」で、人気YouTuber「ヒカル」氏などが、期待をあおってVA価格をつり上げた後、発行済みの全VAを投げ売りしたとし、ユーザーが不当に損失をこうむったと訴えていた問題で8月17日、ヒカル氏側とVALU運営元がそれぞれ、対応を発表した。

 ヒカル氏側は、「売り出したVAをすべて買い戻す」と発表。「VALUで利益を得るつもりはない」などと釈明した。VALU運営側は、ヒカル氏側4人のVA取引で発生した手数料収入をすべて寄付に回し、今後、同様な問題が起きないようルールを整備すると発表。ヒカル氏ら4人のアカウントを出金停止にした。

画像 ヒカル氏らのVALUは「出金を停止している」と表示されている

VALUとは

 VALUは、誰でも自分の「価値」を売り出し、それを他人に買ってもらえるサービスだ。個人が「VALU」と呼ばれる模擬株式(単位は「VA」)を発行して他人に買ってもらい、他人から資金を調達できる。VAの売買はビットコインで行い、一度発行・購入されたVALUは、ユーザー同士で自由に価格を付けて(ストップ安〜ストップ高の範囲で)売買できる。

画像 VALU公式サイトより

 VALU発行者「VALU主」は、VALU購入者「VALUER」に対して、特別なサービスなど「優待」を発行できる。また、VALU主が自らの評判を高めるなどして、市場でのVA価格(ユーザー同士のVA売買価格)が上がれば、VALUERは含み益(転売益)を得ることが可能だ。「VALUERはお金(ビットコイン)を出し、VALU主の成長を応援できる」「VALU主が成長すると、VALUERがトクをする」――という設計になっている。

 ただ、「優待」の提供は義務ではなく、上場企業の株主に与えられる「議決権」や「配当」のような仕組みはないため、VALU主からVALUERが何のメリットも受け取れない可能性がある。また、株取引では規制されている「インサイダー取引」や「風説の流布」などを規制する術もなく、内輪同士の取引で簡単にVA価格がつり上げられるなどルールが未整備で、「投資家保護が不十分」との指摘もある。

買いあおって価格高騰後、全株投げ売り ユーザーから批判

 今回問題になったのは、YouTuber事務所「NextStage」に所属する人気YouTuberのヒカル氏、ラファエル氏、いっくん氏(「禁断ボーイズ」のメンバー)と、NextStage顧問の「井川」氏によるVA取引だ。

 ヒカル氏、いっくん氏、ラファエル氏はそれぞれ、8月9日ごろVALUに「上場」。ヒカル氏、いっくん氏は5万VA、ラファエル氏は2万VAを発行し、10日以降、数%を売り出した。人気YouTuberによる上場は注目を集め、VAの価格は高騰した。

 ヒカル氏らはTwitterの投稿やVALUの掲示板で、「VALUで面白いことをしたい」などと期待をあおる発言をし、14日には「明日一気にバリューで動く」などと投稿。「15日に面白い優待を出すのでは」「優待が発表されれば、VA価格はさらに高騰するのでは」との期待から人気がさらに高まり、14日もストップ高に。15日になっても買い注文が殺到し、高値を更新していた。

画像 ヒカル氏が14日に行ったツイート。これを見たユーザーは「ヒカル氏が優待を企画している」と期待した。このツイートは15日までに削除されている
画像 ヒカル氏が14日にVALUの掲示板に投稿したもの
画像 ヒカル氏は全株を投げ売りしていた

 15日、ヒカル氏・いっくん氏は突然、手持ちの自身のVAすべて(それぞれ4万9000VA前後)を、前日の終値(ストップ高)で売りに出し、ラファエル氏もその日のストップ高で残り全VA(約1万9000VA)を投げ売り。3人がそれぞれ数千万円の利益を得た一方、“投げ売り価格”以上でVAを購入した人は売却益を期待できなくなり、差額分の含み損を被った。また3人は15日、14日に投稿していた、買いあおりともとれるツイートをすべて削除した。

 15日、ヒカル氏はVALUの掲示板に「ここは小銭稼ぎの場でしょうか」「VALUには、小ずる賢い手段で時価をつり上げている偽物がいる」などと投稿し、VALUユーザーを批判。「僕からの優待には何も期待しないでください。今のところ何も考えていません」と、優待を期待した投資家を落胆させた。また14日には、井川氏が保有していた3人のVAをすべて売り、数百万円の利益を得ていた。

画像 ヒカル氏が15日に投稿したVALUユーザー批判

 ヒカル氏らに対してVALUユーザーからは「期待をあおってVA価格を高騰させ、その後突然、全VAを放出して本人が利益を得、VALUERに損失を与えるのは不当では」などの批判が殺到。警察に相談したと報告するユーザーも出た。また、井川氏のVA売り抜けは「インサイダー取引だったのでは」との指摘が上がった。

「買い戻し」で収束図る VALUも対応

 批判を受けヒカル氏は17日、「全てのビットコイン(5465万円相当)を使って自社株買いを行います!」と発表。過去最高値付近の価格でVAの買い戻しを始めた。いっくん氏、ラファエル氏もそれぞれ、VAの買い戻しを始めた。

 ヒカル氏はVALUについて「自分たちの価値を比べて、誰が一番価値のある人間か競うという動画の企画として利用していただけで、一切利益を得るつもりはない」と釈明。「優待を出さない」との表明も覆し、VALUER限定のライブ配信を「優待」として提供すると発表した。また、井川氏のインサイダー疑惑は否定。「井川さんは、僕たちのファンのためにVAを売ってくれただけ」と釈明した。

画像 ヒカル氏のVALUのタイムラインには、7月に設定された「優待」が残っていたが、ヒカル氏によると「初期設定の時のタイムラインの履歴が残っていただけで株主優待の欄には優待を書いたことは一度もない」という。実際、この優待の期限は「7月20日〜8月8日まで」と、売り出しより前になっている

 運営元のVALUも17日、3人からの「買い戻したい」との意向を受け、「利用者保護の観点から特別措置」としていったん、3人のVAの売買注文をすべてキャンセルしたと発表。井川氏を含む4人のVAの取引で発生した手数料収入は、「VALUがミッションとしている『人の価値を発掘し、高める』と類同の意向を掲げる組織へ寄付する」とし、寄付先や額を改めて発表するとした。

 また「利用者保護を最優先に考え、取引に関するルールづくりを進めている」とし、新ルールは「決まり次第発表する」としている。

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