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海賊版サイトのブロッキングは“抜け穴“だらけ 実効性に疑問の声(3/3 ページ)

» 2018年04月25日 07時00分 公開
[高橋睦美ITmedia]
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 まず、違法業者がWebサイトやドメイン名を次々に使い捨て、引っ越すたびに、リストを更新しなければ適切に対処できない。著作権者側の取り組みを説明した村瀬拓男弁護士(専門は著作権、IT系の法務など)は「ドメイン差し押さえ請求も行ってきたが、すぐ変更して別のドメインを使うため難しい」という。村瀬氏が「漫画村の場合は既に2回もドメイン名を変えていた」と述べるように、いたちごっこの状態になってしまう。

 「ブロッキングの元になるリストをいかに精緻に作り、更新するかが問題だ。どうしてもオーバーブロッキングや漏れは発生してしまうため、リアルタイムに更新し、正しいリストであることを担保していかなければならないが、そこに多大な負荷がかかる」と、石田慶樹氏(NGN IPoE協議会会長/日本DNSオペレーターズグループ代表幹事)は述べた。

 加えて、ブロッキングに巻き込まれたユーザーからの問い合わせへの対応や代替ページの表示といった追加費用が、ISPにとってじわじわと負担になるのではないか――と、石川氏は懸念を示した(関連記事)。

 現に、先行してブロッキングを実施してきたイギリスでは、ISPがそのコスト負担に異議を唱えて訴訟を起こしており、最高裁まで持ち込まれているという。楠正憲氏(国際大学GLOCOM客員研究員)は、「(あくまで推測だが)コンテンツレベルで制御しているイギリスのやり方では億単位の費用がかかっているのではないか」とコメントした。

 また、インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)理事の丸橋透氏(兼 明治大学法学部教授)によると、ICSAが取り組む児童ポルノサイトのブロッキングリストの作成・更新には、年間で二千数百万円のコストが掛かっているという(関連記事)。「ブロッキングされる前にコンテンツが削除されたものはリストから外すなど、きめ細かい作業をしている。定期的にリストを見直ししながら運用に当たるという小さいPDCAに加え、第三者の目で運用を見る大きいPDCAを回している」(丸橋氏)

photo ブロッキング運用の流れ

 そして、あまりに負荷やコストが大きすぎると判断すれば、ISPが自身でのDNS運用をやめ、GoogleやCloudflareといったグローバルプラットフォーマーにアウトソースする可能性も考えられると石田氏は指摘した。

 一方、村瀬氏によると、「出版社によってはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく削除申し立てを月に4万件、Googleなど検索エンジン結果からの削除依頼を月に6万件くらいは出している」というように、著作権者側が多大な負担を負っているのも事実。特に中小の出版社にとってはあまりに過大なコストであるとも述べた。

「ブロッキングは言うほど簡単ではない」「有効性も認識されていない」

photo 村井純氏(慶応義塾大学教授)

 いずれにせよ技術的に見ると、海賊版サイト対策という目的を達成する上で、ブロッキングという手段には、残念ながらいくらでも抜け道がある。国民の権利である通信の秘密が侵害され、かつ多大なコストが掛かるのと引き換えに抜け道だらけの対策を取るよりも、法的・経済的に運用者を追い込むもっと有効な手段があるのではないか。

 日本のインターネットの原点である学術ネットワーク「JUNET」を作った村井純氏(慶応義塾大学教授)は、インターネットを運用する中でさまざまなサイトを「ブロック」してほしいという要求に対峙してきた過去を踏まえ、「ブロッキングは言うほど簡単ではないし、有効性も認識されていない。ある1つの悪いコンテンツに対して、それほど効果はないと認識されている」と述べている。

 「デジタルデータが世界中で自由に動き回る健全なインターネットが動作するという共通の目的に向け、技術者だけでなく、さまざまな違う言葉を話す人たちが議論を尽くす必要がある」(村井氏)

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