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「敵とは何か」 SNSの未来を描く「ガッチャマン クラウズ」のメッセージを解くアニメに潜むサイバー攻撃(6/7 ページ)

» 2018年10月12日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

怒りの果てに見通すもの、またはデコーダー(解読者)

K: その「怒りについて」って、どんな本なんですか?

F: ……。ガッチャマンはそれぞれNOTEを持っていて、例えば古参のガッチャマン、O・Dは「崩壊のNOTE」、女の子のガッチャマンであるうつつちゃんは「誕生と死のNOTE」、カッツェさんも実はNOTEを持っていて、その名は「幸災楽禍のNOTE」といいます。そんな風にいうならば、「怒りについて」は哲学者セネカが人の心の中の怒りを抜き出し、客観的に見せるために作った「憤怒雲散・無敵のNOTE」といったところでしょうか。

 私が読んだのは岩波文庫版ですが、ある意味大変危ない本で、直接的には「怒り」とはどこから来るのかを解き明かし、解体します。それを理解できると、他者から向けられる怒りは無効化し、自分の怒りも塵(ちり)のように消える。ただ、その方法論は怒りの解体にとどまらず、制御できないと人間のありとあらゆる感情を全て解体して、下手をすると虚無に落ちます。何をしても意味はない、何も変わらないという世界、O・Dのガッチャマンの特技であり、ありとあらゆるもの全てを砂にしてしまう崩壊の能力のようなものです。乗り越えられると、虚無ではなく、修行の果てのお坊さんや、武道を極めた果ての武道家が会得する空(くう)の境地に至ります。ここに至ると、例えば相手が怒りを振りかざしても、その全てが雲散霧消して効かず、その向こうにある相手の本質、「何を考え、なにゆえに行動し、何を求めているのか」という本質を見られるようになるそうです。私はそんな境地には至りませんでしたが。

K: なんかこう、宗教的な世界に突入してますね。

F: いや、単なる哲学ですよ。もしくは怒りをデコード(解読)するリバースエンジニアリング技術。空は分かりやすくするためになじみのある言葉を用いているだけで。そんな難しいことを考えず、こう考えます。「見えているものが本質とイコールではない」「振りかざされる理屈や感情に惑わされてはいけない」ということです。

 例えばネットの世界では、日々「不寛容」や「マウンティング」、「知識を振りかざした言葉の殴り合い」を見かけますが、それぞれ「相手の意見を受け入れることで自分のレーゾンデートル(存在価値)が脅かされる」「相手より上位でなければ生きている理由がない」「相手を論破することで自分は存在していいということを確かめる」ということによる行動であり、私はその全てが個の生存本能、つまり人間のDNAに刻まれた原初のプログラム「生き残れ!」に帰結すると思います。

K: 諍い(いさかい)の全てが?

F: そう。人間から原始生物まで共通なので、極めて粗いプログラムで例外事項がないのです。だから怒りに対して非常にシンプルに「それを白黒付けないと死んじゃうの? 明日生きていけないの?」という視点で見れば、ほぼ全てのことは生死で評価すると「死にゃあしない」。実は生き残れる。そして「怒りについて」では、こうした論理的な解体をしてなお、分解できず残るものを「獣の怒り」といってます。それはもう理性がない本能100%の原初のプログラムそのものの行動であると。

K: それは人間で言うと……。

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