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「カウボーイビバップ」は電子マネーをどう描いた? 2071年太陽系の“決済手段”架空世界で「認証」を知る(2/2 ページ)

» 2019年02月08日 07時00分 公開
[朽木海ITmedia]
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 基本データから紹介しよう。2015年にネット小説として発表されたSF作品で、筆者はイスカリオテの湯葉氏(その後、書籍化に際し筆名を柞刈湯葉と改名)。

 このツイートを発端に「無尽蔵に広がり続ける巨大構造体と化した横浜駅を旅するSF」という内容で、Twitter上で即興短篇として執筆されたものが好評。その後湯葉氏のブログにて本篇が執筆され、ネット投稿小説サイト「カクヨムへ投稿。2016年には第1回カクヨムWeb小説コンテストSF部門大賞を受賞し、12月にカドカワBOOKSより単行本が発売されている。

 現在でもカクヨムのサイト上に全篇が掲載されているので、詳しくはそちらをぜひ読んでみてほしい。また、単行本はストーリーがカクヨム版とは若干違っているので、比べてみるのも面白いだろう。今回は単行本版に準拠して考察していく。

 あらすじを紹介しよう。自己増殖を繰り返し、本州の大部分を覆い尽くした「横浜駅」。横浜駅の「エキナカ」は「Suika」という認証端末で管理されている。

 大半の者は「エキナカ」で暮らしているが、「Suika」を持たない者や、不正判定を受けた者は「エキソト」へ放り出され、そこで暮らしている。生まれた頃よりエキソトで暮らしていた青年「ヒロト」は、「エキナカ」より来た男より手渡された「18きっぷ」を手に、エキナカへの探検に赴くが……。

 このあらすじからも認証の話が見えてくると思う。「エキナカ」の人間は6歳までに「Suika」を体内に導入する必要がある。「Suika」は認証端末であり、かつ電子マネーの「財布」でもあるため、これを持っていなければ「エキナカ」で生活できないのだ。これは後付けの「生体認証」式電子マネーといっていいだろう。

 一方ヒロトは、「18きっぷ」という切符で5日間だけ「エキナカ」に入場する権利を獲得する。これはカード型をしており、「所有物認証」といえる。しかし、「18きっぷ」には電子マネー機能はない。

 ヒロトがエキナカのカレー屋で現金で支払いを済まそうとしたところ、「エキナカ」の人間は現金を見たことがないためトラブルになるといったエピソードも存在する。

電子マネー

仮想通貨の登場するSFも存在する

 ここまでは電子マネーの登場する架空世界を考察してきた。では、最近話題の「ビットコイン」のような「仮想通貨」の登場する架空世界はあるのだろうか。

 その前に「電子マネー」と「仮想通貨」の違いについて説明しよう。

 従来の電子マネーは、どこまでいっても既存の通貨に価値を依拠してきた。一方「仮想通貨」はそれ自体が独自の価値を持つ「代替通貨」である。要するに日本円に対しての米ドルのようなもので、発行母体が違い、全く独自の価値を持つ通貨なのである。だから現実のニュースで「ビットコインが急騰」などの話題が登場するわけだ。

 ではどのようにして「仮想通貨」の価値は保証されているのか?

 ここはまさに私の専門分野なのだが……。本講義で話すにはかなりの脱線となってしまう。またの機会とさせていただこうか。興味のある諸君は、各種文献を当たってみるように。

 さて、この仮想通貨を題材としたSF作品が存在する。藤井太洋著「アンダーグラウンド・マーケット」である。

 藤井太洋氏は2012年に電子書籍によるセルフパブリッシングで「Gene Mapper」を発表しデビュー。その後も近未来を精緻に描いた作品を数々上梓し好評を博している。

 今回紹介する「アンダーグラウンド・マーケット」は2013年から2014年にAmazon Kindleでリリースされ、その後改定され単行本になった作品だ。

 全篇にわたって仮想通貨を題材としたSFで、無税の地下経済に生きる人々の生活とトラブルを描いている。

 仮想通貨のやりとりは現代と同じように主にスマートフォンやPCを用いていて、特に「バンプ」と呼ばれる、スマートフォンを持った手を打ち付けあって情報をやりとりする方法が何回か登場する。認証自体の描写はあまり登場しないが、今の技術の延長であろうから、スマートフォンの指紋認証などを用いているものと推測される。

 また、途中で仮想通貨が「スリ」に遭う描写も存在する。スリの少年がNFC(近距離無線通信)の決済モードにして、勝手に盗み取ったのだ。これを見るに、この架空世界での仮想通貨は、限りなく現金に近いような扱いができるもののようだ。

 他にも仮想通貨の扱いは、この作品の核心であるので、詳しくは諸君の目で確かめてみてほしい。藤井太洋氏のSFは、その他の作品もこの講義を読んでいる諸君が好みそうな題材が多いのでおすすめしておこう。

電子マネー

 今回は「電子マネー」や「仮想通貨」の登場する架空世界を紹介してきたが、いかがだっただろうか。

 こうした商取引と認証は切っても切り離せない関係である。架空世界を通して現実の取引についても考察してみるのも良いのではなかろうか。

 さて次回は、前回扱ったリアルロボット系アニメでの認証に対して、スーパーロボット系アニメでの認証はどのようなものになっているか考察してみようと思う。

著者プロフィール

朽木 海 (ライター、編集者、γ-Reverse代表)

ゲーム会社や出版社などの「IPが欲しい会社」と、ライトノベル作家や脚本家、漫画家などの「IPを作りたいフリーランス」を繋げるためのプロジェクト「γ-Reverse」の代表。引き続きライター業や編集者業も行っています。

せぐなべ」にて「オンラインゲームセキュリティガイド〜正体バレても大丈夫?ネットの向こうにご用心〜」を執筆。

「せぐなべ」紹介

ITを活用する上で無視できない認証とセキュリティの話題を、楽しく分かりやすく伝える認証セキュリティの情報サイト「せぐなべ」。運営企業のパスロジは、企業向け認証プラットフォーム「PassLogic」や個人向けパスワード管理アプリ「PassClip」などを提供。ITmedia NEWSで認証関連の話題を分かりやすく解説する「今さら聞けない「認証」のハナシ」を連載中。

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