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なぜ日本で「自作キーボード」が流行り出したのか そのきっかけを振り返るハロー、自作キーボードワールド 第1回前編(2/2 ページ)

» 2019年10月21日 07時00分 公開
[ぺかそITmedia]
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「ErgoDox」や「Planck」の到来

 一つは、海外でユニークなキーボードの部品やキットが登場し、一部の人達によって日本へ輸入されたことだ。

 海外では2010年代ごろから、オリジナルキーボードの開発や組み立てがコミュニティ内で行われていた。その中でも新たなキーボードを開発する人たちの手によって生み出された「ErgoDox」や「Planck」は、エルゴノミクスやコンパクトさを追求した目新しさが特徴だ。

 日本でも、「ウェブ魚拓」の開発者で「握力王」としても知られる新沼大樹氏が、ErgoDoxを使用する様子が16年ごろに一部で話題になった(新沼氏自身は別の左右分離式キーボードを利用していた)。これらのキーボードは、市販品には見られない見た目や打鍵感を持つカスタムキーボードの先駆けとして今でも人気を集めている。

現在でも人気のあるエルゴノミクスキーボードの「ErgoDox EZ」(画像は公式サイトより)
47キーとコンパクトな「Planck EZ」(画像は公式サイトより)

オープンソース文化が好影響

 もう一つはハードウェア/ソフトウェアにおけるオープンソース文化の影響だ。趣味性が高い自作キーボードは、キーボードの基板などハードウェアの図面が公開されていることが多い。

オープンソースのキーボードファームウェアとして有名な「QMK Firmware」 各キーボードの設計データもQMK Firmwareのプロジェクト上で公開されることが多い

 キーボードを動作させるファームウェアについても「QMK Firmware」を始めとしたオープンソースプロジェクトが人気で、キーボードを設計するためのツールなども無償で公開されている。ハードウェア/ソフトウェアの設計コストを大幅に抑えられるため、多くの人が参入しやすい環境が整っているといえる。

「Let's Split」派生の左右分離キーボードが国内で登場

 とりわけ日本国内では、カスタムキーボードに先立って、自作キーボードの基板を各開発者がイチから設計し、その知見が発展してきたという独特な経緯がある。

 海外掲示板RedditのユーザーであるWootpatoot氏が開発した、「Let's Split」という左右に分離した48キーのコンパクトなキーボードが、2017年ごろに国内の一部の人たちの間で流行し、組み立ての知見(ビルドログ)が多く公開された。

 Let's Splitは当初設計図を公開していなかったものの、構造がシンプルだったため解析が行われ、ここから派生して「Helix」「Crkbd」「Ergo42」「Fortitude60」など、日本人による設計の自作キーボードが多く生まれるに至った。

筆者が開発した自作キーボード「Fortitude60」(イキリホワイト)

 日本国内で左右分離式の個人設計のキーボードが多いのも、このような経緯がある。

同人ハードウェアを販売しやすい環境も

 他にも、日本ではハードウェアを同人作品として発表できる土壌が整っているため、個人が設計した自作キーボードキットを小ロットで頒布・販売しやすい。このこともオリジナル設計の自作キーボードが盛り上がった要因として考えられる。

 近年では国内のユーザー数が一気に増えたことによって、カスタムキーボード用の部品も含めた豊富なパーツを簡単に入手できるようになった。ネットショップだけではなくリアル店舗も出来たことで今後もユーザー数は広がっていくと思われる。


 ここまで、自作キーボードの魅力や日本の自作キーボードブームのきっかけ(2016〜2017年まで)を振り返った。後編では、2018年からの急激な盛り上がりの経緯や、これから自作キーボードを始めたい人向けの入門法をお伝えする。

後編に続く

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