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なぜクラウドではダメなのか? いま「エッジAI」が注目されるワケよくわかる人工知能の基礎知識(3/3 ページ)

» 2020年03月19日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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エッジAIは数年以内に定着する?

 調査会社の米Gartnerは同社のレポート「人工知能のハイプサイクル:2019年」で、エッジAIという技術を「黎明(れいめい)期から過剰な期待のピーク期に差し掛かる段階にある」と評している。ネガティブな印象を受けるかもしれないが、具体的な製品やサービス、システム上での実装が広がる段階だと捉えてほしい。

 過剰な期待がはじけてしぼむのは、理論上の期待ではなく具体化が進むことで、現実における問題が浮き彫りになるためだ。その問題を克服できずに消えていく新技術もあるが、解決策を見いだして進化できれば、より現実的な技術へと洗練されていく。エッジAIに限らず、新しい技術はこの段階を経て、本当に価値を生み出す存在として浸透していくのである。エッジAIの場合、Gartnerはそれにかかる期間を2〜5年と予測している。一時的にさまざまな問題点が指摘されたとしても、比較的短い期間でエッジAIは定着するだろう。

 先ほど、エッジAIではクラウド側で機械学習、エッジ側で推論の役割を担うことが多いといったが、最近はエッジ側のみで学習を行うAIチップが登場している。岩手大学発のスタートアップ、AISingが開発した「AiiR」もその一つだ。独自開発の機械学習モデル「Deep Binary Tree」を使うことで、エッジ側での自律学習を実現。ディープラーニングと比べて必要とされる演算量が小さいため、エッジ環境でも学習が可能という。そのためAiiRでは、組み込み機器などの機械制御に用途が特化されている。

 AIチップの世界は、米NVIDIAが先行して市場を独占しており、それを米GoogleやIntel、中国Baiduなどが追う展開となっているが、エッジ向けのAIチップは、スタートアップ企業も交えて各社がしのぎを削っている状況だ。王者NVIDIAも「Jetson Nano」という低コスト・低省電力なAIチップを発表し、ライバルを迎え撃つ態勢となっているが、新興企業が次の主役の座を奪う可能性も十分あるだろう。

 いずれにせよ、エッジAIがさらに進化し、世の中に浸透していくのは間違いなさそうだ。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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