70歳ぐらいの受講者もおり、最初はSlackに書き込むだけでも不安だったものの、自己紹介するとすぐに10件ほどの反応がつきました。AI Questの受講者はオンラインでのコミュニケーションに長けた人が多く、受講者同士の心理的な障壁は低かったかもしれません。
Slackのチャンネル作成や書き込み状態も無法地帯ではなく、ガバナンスにも配慮しました。数カ月たつと自然と“コミュニティーマスター”のような役割の受講者が自然発生的に出てきます。今後は、そうしたリーダーのある方々にコミュニティー運営をお任せしていくことも検討していきます。
「サタデーサロン」という、毎週土曜日に課題を解くために受講者同士がディスカッションをする場も用意していました。しかし土曜日では参加しにくい人もいたため、平日にも開催するようにしました。運営側が最初に決めたルールをやり通すのではなく、細かな仕組みを常に改善していくアジャイル的な運営にできたことも成功の一要因かと思います。
マスクド AI Questでは協働企業として、中小企業6社(製造業5社・小売業1社)から課題解決やデータ提供などがありましたね。
上出さん このプログラムはAIなどの活用による中小企業の生産性の向上を事業目的の一つとしていることから、原則、中小企業を協働の対象にしています。協働企業に関しては、20年度は6社でしたが、21年度は、20〜30社に拡大することを予定しており、さまざまな業種へのAI導入事例を策定したいと考えております。
AI人材の協働を受け入れていただいた中小企業各社からは「AI導入に対して前向きになった/理解が深まった」「実際に受講生と協働してPoCを実施することでビジネス上の成果が上がった」などポジティブな感想を頂いています。受講生からも、協働の体験を通じて実務経験を積めたなどの感想がありました。中には、AI Questとしてのプログラム終了後も継続的にお付き合いいただいている企業もあります。
マスクド AI Questを通じて蓄積したサンプル教材を公開していますね。人材育成に予算や手間がかけられない中小企業などの支援策になりますか?
上出さん 現在、経産省のページでデータ付き教材の一部をサンプルとして公開しており、さまざまな立場の方からお問い合わせをいただいています。教材は、教育機関などで公共の利益に資する場合や、社内研修用など非営利目的で用いられる方に提供し、活用いただいています。一方で知的財産権の帰属の関係もあり、営利目的で利用したいという方にはご遠慮いただいています。
受講生の方々の満足度からも、AIを通じて企業の課題を解決できる人材の育成と、コミュニティーを形成しての学び合いが達成できたと考えています。このような講師に依存するような形ではなく、参加者同士の学び合いによる拡大生産性のある育成プログラムが実施できたことは、非IT企業での今後のAI人材育成にも応用ができそうです。
20年度のオンライン移行でも高い満足度を得られたというAI Quest。利用に制限はありながらも、教育や研修に同プログラムの教材を使えるのは、AI人材の育成に取り組みたい日本の企業にとって助けになりそうだ。オンライン環境下での心理的安全性を確保する環境作りは特に印象的で、育成プログラムの運営面で参考になるだろう。
21年度はさらに協働企業を広げるとしていることからも、このプログラムを受けて育った人材がさまざまな場所で、課題解決に活躍していきそうだ。
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