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量子コンピュータ、直近数年の活用シーンは? 量子ベンチャーblueqatの湊CEOに聞くマスクド・アナライズの新弟子入門!(1/2 ページ)

» 2021年02月03日 07時00分 公開

 本連載ではAI関連のビジネスについて発信を続けてきたマスクド・アナライズさんが、各分野の専門家に「新弟子」として入門し、これから注目される技術やビジネスなどについてお届けします。

 記念すべき第1回目は量子コンピュータをテーマとして、本誌でも2019年6月にインタビューした量子ベンチャーblueqat(ブルーキャット、旧MDR)のCEOである湊雄一郎さんにあらためてお話を伺いました。

 2021年を迎え、活用事例も増えていく量子コンピュータの将来や、社会へ与える影響について湊さんに聞いていきます。

新連載:マスクド・アナライズの新弟子入門!

マスク

“自称”AI(人工知能)ベンチャーでの経験を基に情報発信するマスクマンこと、マスクド・アナライズさん。AIをめぐる現状について愛と毒を混ぜた連載記事で人気を得るも、AIブームの終焉とともにネタ切れに(本人談)。

新連載をきっかけに、突撃取材キャラにギミックチェンジ。

最近の悩みは本連載のネタがねとらぼと被りそうなこと(編注:そうですか?)。

著書に「AI・データ分析プロジェクトのすべて」「これからのデータサイエンスビジネス」がある。

お問い合わせのメールは info@maskedanl.com まで。Twitter:@maskedanl

現在の量子コンピュータビジネスの状況は?

マスクド 量子コンピュータも徐々に活用事例が出てきましたが、blueqatの状況はいかがでしょうか。

blueqatの湊雄一郎CEO(取材はオンラインで実施)

湊さん 関心が高いのは自動車業界で、自動運転への応用やフリート管理(注釈:「フリートマネジメント」とも。企業が保有する社用車に関連する各種管理コストを指す)、強度計算といったシミュレーション用途などで引き合いがあります。

 社会インフラの側面としても、交通整理や渋滞の防止、物流の効率化など幅広い展開に期待されています。自動車以外では、電力・エネルギー業界が注目しており、再生可能エネルギーやカーボンニュートラルなどのテーマですね。

マスクド 湊さんはblueqatで2014年ごろから量子コンピュータに取り組んでいますが、時代の変化などは実感しますか?

湊さん 当時は専門家がほとんどいないので情報が手に入らず、実機もありませんでした。そこで米国に出向きましたが、当時の日本では誰も話を聞いてくれなかったです。2017〜18年ごろになるとカナダのD-Wave Systemsが作ったマシン「D-Wave」が話題になりましたが、それでもまだ話題不足で、米Googleや米IBMが参入して、やっと話を聞いてもらえるようになりました。

マスクド 量子コンピュータは外国での研究が先行しているように感じますが、どんな動きに注目していますか。

湊さん 量子コンピュータの素子である量子ビットを作る仕組みは4種類あります。超電導方式は米Rigetti Computingや米IBMが研究しており、量子アニーリングのD-Waveも超電導です。超電導方式は動作速度がイオントラップより早く、実運用でも使えます。

IBMの量子コンピュータプロセッサ「Falcon」

 対してイオントラップは、量子ビット数は少ないながらも精度が高いのが特徴で、期待しています。米Intelはシリコン量子ビットを研究しており、これは既存の半導体と量子コンピュータを組み合わせる技術です。Googleの超電導量子ビット開発責任者もシリコン量子ビットのベンチャーに移籍しており、新たな知見が得られそうですね。

米Honeywellのイオントラップ式量子コンピュータ

 光子(光の最小単位)を使う方式の量子コンピュータについては、自社では「Photonqat」というSDK(Software Development Kit)を提供しています。

マスクド 中国の動きはどうでしょう?

湊さん 中国科学技術大学による興味深い論文も多く、基礎研究を含めて全土で展開している印象です。特に中国は数学や機械学習の分野に強く、機械学習は量子コンピュータの計算力を生かせると期待される分野です。将来的に米国勢が量子分野における研究成果で勝っても、機械学習では負けてしまう可能性もありますね。

量子超越性を達成した中国科技大の光量子コンピュータ

マスクド 日本でも大学やスタートアップが研究していますが、いかがでしょう?

湊さん もともと日本は物理学における研究の積み重ねもあるので、 日本企業がAmazonの量子コンピューティングプラットフォームのパートナーになったり、米国で日本人が起業したりすることもあります。

 日本発の量子ベンチャーでいうと量子化学計算を手掛けるQunaSys(東京都文京区)はレベルが高く、特に研究成果は外国でも評価されています。やはり国内だけでは技術開発や市場規模などで限界があるので、外国に出ることは重要ですね。

量子コンピュータが直近で活用しそうなシーンは?

マスクド 量子コンピュータの研究が進むことで、実現可能となるテーマはありますか?

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