湊さん 「サンプリング」という、データの生成が非常に向いています。ある状態からサンプルを取得する処理ですが、これはいわゆる「ガチャ」そのものです。
実は現状の量子コンピュータは、答えを求めるよりも、決められた確率で出てくるデータを生成する方が向いています。2019年に量子超越性の実証を発表したGoogleや、2020年に光量子コンピュータで量子超越性を実証した中国科技大が実験で計算しているのもサンプリングです。これを現実に応用する方法を見つけるのが重要と考えています。
サンプリング以外にも、画像認識や自然言語処理といった分野への量子機械学習の応用に期待しています。
マスクド 「量子コンピュータは複雑な条件から答えを出すのが得意」というイメージとは異なりますね。
湊さん そのようなイメージを持つクライアントには申し訳ないですが、そうした計算では答えを出すために数時間かかる場合もあります。対して、サンプリングなら一瞬で処理できるので「計算が速い」というイメージは保てます。
問い合わせをいただく方は量子コンピュータに対する期待値が高いので、まずは期待感を落とすことから始めます。継続的に信用を得るには「できないものはできない」と答えた方がいいのです。
短期的には売上を逃す形になりますが、出来ないことをできると言って信用を失えば取り戻すのが大変ですし、今出来ることだけやるのが、お互いにとっても良いことだと考えます。
マスクド AIブームでも期待値の高さや「出来る・出来ない」が問題となって、失望にもつながりました。AIの次に量子コンピュータが盛り上がっている印象がありますが、いかがでしょう。
湊さん 売上は毎年倍々で増えていますが、人材は急に育ちません。AIブームのような受託開発やコンサルティングといった、人員拡大による売上増を目指すビジネスモデルには限界もありますし、クライアントのデータが大きくなければ高速な量子コンピュータを使うメリットがありません。中長期的にはストックビジネスができるモデルを構築する必要があると思います。
マスクド 将来、量子コンピュータは既存のコンピュータを置き換えていくのでしょうか?
湊さん 例えばGPUは消費電力や発熱量が多いですが、量子コンピュータは将来的に少ないエネルギー消費で計算できる可能性があり、省エネ性能という面で優位性があります。量子コンピュータ特有の計算力も追求しますが、より消費電力が少なければ、十分に置き換えるメリットがあるでしょう。
マスクド 仮に現在のコンピュータの一部が量子コンピュータに置き換わると、社会にどのような変化が起きますか?
湊さん 社会の仕組みは人間が前提となっていますが、まだまだ無駄が多いです。現在の仕事の進め方は人間同士のコミュニケーションありきですし、人間が行う作業には非効率な面があります。
こうした無駄を改善すればデータ量も増えて流動性も高くなり、取引もスムーズになるため、量子コンピュータのビジネスとして成立します。
湊さん 量子コンピュータを使ってエネルギー消費を減らしつつ、従来の機械学習よりも複雑な検索モデルの開発に注力したいですね。相手が欲しいと思うものをピンポイントに提案することは無理でも、ある程度の方向性は見つけられるでしょう。
マスクド 人間の感情や心理に対する配慮を、量子コンピュータで再現するイメージでしょうか?
湊さん さまざまなデータから「本当はこうしたい」という要望を見つけられるため、その時点の行動からやりたいことを把握して、焦点を探ることはできるでしょう。
提案や組み合わせといった顧客体験をマシンが提示して、顧客満足度を高める仕組みを作るのが直近の目標です。そのために自分が欲しいものを、正確でなくともある程度の方向性で導き出せる新たな検索の仕組みが必要です。
従来の検索は既存のデータを基にしていますが、今後はマシンがよりリアルタイムに検索する仕組みができるかもしれません。こうした少し先の未来を予測する仕組みを量子コンピュータで作っていきたいですね。
本取材では量子コンピュータに対する印象について、良い意味で期待を裏切る内容となりました。事前調査とは異なる部分も多くありましたが、どんな技術でも適材適所があり、自分で調べることが重要だと実感しました。
かつてのAIブームのような、偏ったイメージや高すぎる期待値による失敗を繰り返すことなく、量子コンピュータを活用できる社会になっていくことに期待したいです。
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