再生可能エネルギーの活用や節電対策によってエネルギーの消費量を実質的にゼロにする「ゼロ・エネルギー・ビル」の補助金制度が始まる。新築ビルで30%以上、既築ビルで25%以上のエネルギーを削減することが条件で、高機能なBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)も必要になる。
節電に欠かせないエネルギー管理システムや蓄電システムなどの補助金制度を運営する「環境共創イニシアチブ」(SII)が、新たに「ゼロ・エネルギー・ビル」の補助金制度を5月28日から開始する。オフィスビルのほかに、エネルギー消費量が多いホテルや店舗、病院や学校なども補助金の対象になる。
SIIが経済産業省からの委託を受けて運営するもので、すでに住宅向けには「ゼロ・エネルギー・ハウス」の補助金制度が5月11日から始まっている。ビルと住宅の双方でゼロ・エネルギーの取り組みを推進するプロジェクトが本格化する。
ゼロ・エネルギー・ビルは、石油などによって作られる再生が不可能な「一次エネルギー」の消費量を、再生可能な太陽光発電などの活用や電力使用量の削減などによって、相殺効果を計算してゼロに近づける(図1)。温室効果ガスの排出量を低減することが最大の目的だ。
SIIの補助金制度では、一次エネルギー消費量の削減率によって補助金の対象を審査する。新築ビルや増築・改築の場合は決められた計算式による一次エネルギーの消費量を30%以上、既築ビルの場合は過去3年間の実績値の平均から25%以上を削減できることが条件になる。
ゼロ・エネルギー・ビルを実現するための設備費やBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)などの計測装置費、さらに工事費が補助金の対象になり、総額の3分の1まで支給される。ただし節電と発電のための設備が対象で、蓄電システムは対象外である。
エネルギー消費量の削減率が30%を超える場合には、削減率によって3分の2まで補助率が上がり、1件あたりの上限は5億円と高額に設定されている。補助金の総額は約40億円を見込んでいる。6月29日まで申請を受け付け、補助金を支給する案件は8月上旬に公表する予定である。
経済産業省の試算によると、一般的なビルにおける一次エネルギーの消費量は、床面積1平方メートルあたり年間で2030MJ(メガジュール)とされている。これを電力に換算すると、平均で約65ワットを1年間にわたって使った場合とほぼ同等である。例えば延べ床面積が1万平方メートル程度の中規模なビルでは、平均で650kWの電力を年間に利用した量に相当する。
これだけのエネルギーを節電と再生可能エネルギーでカバーするためには、さまざまな対策が必要になる(図2)。典型的な「ゼロ・エネルギー・ビル」は、太陽光発電や廃熱の利用、エネルギー効率の高い照明・空調・給湯のほか、換気や外壁なども省エネを考慮した設計仕様が盛り込まれる(図3)。
では具体的に、どのような設備を導入すれば補助金をもらえるのか。補助金の条件として4つの基本要件と構成要素が挙げられている(図4)。このうち最低1つの基本要件を満たす必要がある。
さらに2つ以上の基本要件を満たしてエネルギー削減率が40%以上になると補助率が2分の1まで、3つ以上の基本要件で削減率を50%以上にできると補助率は3分の2まで上がっていく(図5)。
BEMSを導入してエネルギー消費量をきめ細かく管理・制御できることも補助金の必要条件の1つだ。SIIが4月末から開始した「BEMSアグリゲータ」の補助金制度があるが、その要件よりも高い制御機能が求められる。
具体的には、複数の建物を含めたエネルギー管理や、気象条件に合わせた機器の負荷制御など、5項目が規定されており、そのうち1つ以上を実現しなくてはならない(図6)。補助金を受けてビルを建設した後には年間の実績値を報告する義務があり、その点でもBEMSは不可欠である。
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