導入企業が増えるガスコージェネ、電気と熱の両方を効率よく供給連載/電力を安く使うための基礎知識(6)

家庭向けの「エネファーム」で注目を集めているガスコージェネレーションシステムは、都市ガスやプロパンガスから電気と熱の両方を作り出せるためにエネルギー効率が高く、通常の電力と比べてコストが割安になる。特に熱を多く使う企業が導入すると効果的だ。

» 2012年05月29日 13時38分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 ガスと聞くと、従来はガスコンロやストーブ、給湯機などに使われるイメージが強かったが、最近は企業の発電用でも普及してきた。ガスを使って電気と熱の両方を作り出せることから「ガスコージェネレーションシステム」(略称「ガスコージェネ」)と呼ばれている。

 調査会社の矢野経済研究所によると、東日本大震災の後に発電システムとしての需要が高まり、2011年度は企業向けのガスコージェネの出荷金額が前年度から2倍以上に増加した。今後も年率40%以上のペースで市場規模が拡大していくと予測されている。

ALT 図1 ガスコージェネレーションシステムと火力発電のエネルギー効率。出典:日本ガス協会

 ガスコージェネが注目を集める要因は主に2つある。1つは電気と熱の両方を利用者の近くで作ることができるため、同じガスを使う火力発電と比べて、効率的にエネルギーを生み出せる点だ(図1)。発電の時に出る熱を再利用して冷暖房や給湯に使うことができる。およそ2倍の効率でエネルギーが利用者に届き、それに伴ってエネルギーの利用コストが安くなる。

 かりに電力会社とガス会社が同様のコスト計算で電気料金とガス料金を設定していれば、ガスコージェネは利用者から見ると通常の電力と比べて約半分のコストで済む計算だ。その差額によってガスコージェネシステムの導入費を回収し、それ以降のコスト削減につなげることができる。

 もう1つのメリットは災害や電力不足によって停電が発生しても、電力を供給し続けられることである。これまでガスコージェネはポンプなどの動力用に電力会社からの電力供給がないと動作しない製品が多かったが、最近は自立型の製品が増えて、停電時でも動作モードを切り替えて電力と熱を供給できるようになってきた。企業にとってはBCP(事業継続計画)の点でも効果を期待できる。

 現在のガスコージェネシステムは発電の仕組みによって3種類に分けられる(図2)。発電容量の大きい順に「ガスタービン」「ガスエンジン」「燃料電池」の3方式である。このうち家庭向けで普及している「エネファーム」は燃料電池を使ったものだ。タービンやエンジンを使わないので騒音が小さいという利点がある。

ALT 図2 ガスコージェネレーションシステムの種類。出典:日本ガス協会

企業向けの小型システムで400万円程度

 ガスコージェネは太陽光発電システムと同様に、発電能力が10kW以上の製品が企業向け、10kW以下が主に家庭や店舗向けである。ガス会社のほかに電機メーカーや自動車メーカーなどが企業向けと家庭向けの両方を販売している。

 企業向けの小型システムが10kWタイプで400万円程度、家庭用のエネファームで0.7kWタイプの普及型が給湯と暖房の機能が付いて250万円程度である。

ALT 図3 ガスコージェネレーションシステムの導入施設。電力と熱の必要量によって導入するシステムが分かれる。出典:日本ガス協会

 ガスコージェネ製品を検討するにあたって重要なことの一つは、電力を重視するか、給湯や冷暖房など熱の供給を重視するかである。導入する施設によって電力と熱の必要量のバランスが違うため、製品も電力供給に重点を置いたタイプと熱の供給に重点を置いたタイプに分かれている(図3)。電力と熱の必要量に見合った製品を導入すれば、十分な費用対効果を得ることができる。

ALT 図4 企業向けの小型ガスコージェネレーションシステム(寸法はミリメートル)。出典:東京ガス

 企業向けの小型システムで標準的な製品を例にとると、発電能力が10kWタイプのもので、熱の供給量を加算すると約27kW相当のエネルギーを作り出すことができる(図4)。ガスからのエネルギー効率は電力が30%、熱が50%で、利用可能なエネルギーは合計して80%になる仕組みだ。火力発電の場合の40%と比べて、エネルギーの変換効率は2倍になる。

 このガスコージェネシステムを毎日12時間稼働させた場合、年間の電力使用量に換算すると約12万kWhに相当する。企業向けの電気料金の平均的な単価15円/kWhを掛け合わせると年間で約180万円になる。エネルギー効率を2倍とすれば、ガス料金が2分の1の約90万円で済むことになり、年間で約90万円のコスト削減につながる計算だ。

5年程度で初期導入費を回収できる

 初期導入費はシステムの価格400万円に工事費が加わる。これに対して毎年90万円のコストを削減できれば、5〜6年程度で回収できる。平日だけ稼働させた場合は1.5倍の期間が必要になる。ガスコージェネの寿命は標準で10年〜15年と言われており、それでもコスト回収は十分に可能だろう。特に休日がなくて営業時間が長いホテルや病院、ファストフード店やコンビニエンスストアなどに導入すれば効果的である。

 経済産業省の補助金制度も企業向けと家庭向けの両方で用意されている。企業向けは発電能力が10kW以上の製品を導入した場合に、一般企業であれば工事費を含む導入費用の3分の1まで、地方自治体などは2分の1まで補助金を受けることができる。申請の締め切りは2012年6月15日である。

 家庭向けにはエネファームの補助金が2013年1月末まで申請を受け付けている。1台あたり70万円までの補助金を受けることができる。電気料金の値上げが相次ぐ中、うまく補助金を活用して低コストでガスコージェネを導入する好機と言える。

*この記事の電子ブックレットをダウンロードへ

連載(7):「電力会社を使わなければ、電気料金は下げられる」

連載(1):「料金計算の仕組みが分かれば、電気代をスマートに削減できる」

連載(2):「節電を1台でこなす、デマンドコントローラ」

連載(3):「節電対策の主役に急浮上、BEMSの費用対効果を検証」

連載(4):「蓄電池に夜間の安い電力を、今なら補助金も使える」

連載(5):「昼間の電力ピークカットには太陽光発電、価格低下で普及が加速」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.