電力は使い切らない、余らせて売ってコスト削減連載/電力を安く使うための基礎知識(8)

これまで大半の企業にとって、電力は買うものだった。しかし今後は余った電力を売れる時代になる。太陽光発電など再生可能エネルギーであれば、いつでも一定の価格で売ることができる。需要がピークになる夏の午後に余剰電力を買い取る新サービスも続々と始まる。

» 2012年06月19日 09時30分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 一般の企業にとって、いまや電力を売る方法は4通りもある。融通できる電力の量によって最適な方法を選べる状況になってきた。電力会社が料金を値上げする中で、これらの方法を生かさない手はないだろう。

 最も簡単な方法は、夏の午後に電力会社などから要請があった場合に、節電による余剰電力を買い取ってもらうものだ。要請に応じることから「デマンドレスポンス」、あるいは余らせた電力を活用することから「ネガワット」と呼ぶ。この夏から東京電力や関西電力などがサービスを開始する。

 2つ目の方法も比較的簡単で、7月1日から始まる「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」を利用する。この制度は太陽光発電や風力発電など自然エネルギーによって作り出した電力に限られるが、条件に合う発電装置を使えば、常に一定の価格で買い取ってもらうことができる。

 3つ目は上場企業の株式と同じように取引所で電力を売買する方法がある。例えば製造業などで規模の大きい自家発電設備を持っている場合に、日時と単価を決めて余剰電力を販売することができる。ただし入札方式のため必ず売れるとは限らない。

 最後に4つ目の方法は、みずから電気事業者になって他の企業に電力を直接販売する。企業の多くが利用する「高圧」(契約電力50kW以上)であれば、政府から電気事業者の認可を受けたうえで電力を販売することが可能だ。このような「新電力」と呼ばれる電気事業者が年々増えており、現在では58社が登録している。

 以上のうち最初の3つの方法は、電力を使いながら、余った電力を売って、コスト削減につなげることができる。多くの企業にとって電力を有効に活用する手段になり得る。それぞれの方法について詳しく見ていこう。

デマンドレスポンスで報酬を得る

 第1の方法であるデマンドレスポンスは、東京電力と関西電力が7月から実施するほか、新電力の最大手であるエネットや大阪ガスも顧客企業を対象に同じく7月から開始する予定だ。このうち東京電力とエネットが実施するサービスを例に、デマンドレスポンスの仕組みを説明していく。

 東京電力のデマンドレスポンスは、日立製作所などの「アグリゲータ」を通じて、電力不足が想定される夏の午後などに、顧客企業から余剰電力を買い集める(図1)。事前に日時を決めてアグリゲータから顧客企業に電力使用の抑制を依頼し、各企業が通常の使用量と比べて電力を削減すれば、それに対して報酬を支払う仕組みである。実際には電気料金を割り引く方法をとる。

ALT 図1 東京電力のデマンドレスポンス(DR)の仕組み。出典:東京電力

 エネットの場合はさらに進んでおり、時間帯別の料金プランの中にデマンドレスポンスを組み込んで顧客企業に提供する。電力不足が見込まれる緊急時に料金を高くする一方、その時間帯に通常よりも使用量を減らした場合には報酬(リベート)を支払う(図2)。しかもデマンドレスポンス型のプランを契約すると、緊急時以外の時間帯別の料金も安くなる特典がある。

ALT 図2 エネットのデマンドレスポンスを組み込んだ時間帯別の料金プラン。出典:エネット

 このように事業者からの要請に合わせて電力を削減するためには、企業内の使用量を時間帯ごとに制御できるBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)が不可欠である。BEMSを使えば通常時の節電に加えてデマンドレスポンスによる報酬を得ることも可能になり、電気料金をいっそう引き下げることができる。

太陽光発電は2倍以上の価格で買い取り

 節電ではなく発電によって、より多くの電力を、より高く売ることが、7月1日から可能になる。企業が電力を売る第2の方法だ。再生可能エネルギーの固定価格買取制度では、発電する側が長期的に利益を得られるように、通常の電力会社が販売する電力よりも高い買取価格が設定された。最も高い小型風力発電(出力20kW未満)は1kWhあたり57.75円、買取量が最も多くなる見込みの太陽光発電は42円である(図3)。

 電力会社が企業向けに販売する電力は1kWhあたり20円以下であることから、2倍以上の価格が付けられている。その分のコストは電力会社の料金に上乗せされるため、買取制度を利用しない企業にとっては電気料金が増える方向に働いてしまう。これからは継続的なコスト削減のためにも、自家発電設備を導入して余った電力を販売することを考える必要があるだろう。

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ALT 図3 発電方法(電源)別に定められた買取価格の概要。出典:資源エネルギー庁

 再生可能エネルギーでなくても、第3の方法である取引所を利用すれば電力を売ることができる。電力会社やガス会社が共同で設立した「日本卸電力取引所」が国内で唯一の取引所になる。30分単位で電力を売買できるが、取引に参加するためには会費を払って会員になる必要がある。発電能力か電力需要のいずれかが1000kW以上であることも条件で、売り手になるためには大型の自家発電設備を所有していることが前提になる。

 この取引所に6月18日から「分散型・グリーン売買市場」という新しい場が設けられた。より小規模な発電設備を持つ企業を対象にしており、売買単位に制約はなく、会費も不要だ。再生可能エネルギーの固定価格買取制度では対象にならないガスコージェネレーションによる電力も売ることができる。入札方式のため、需要が多い季節や時間帯であれば、固定価格買取制度の単価よりも高く売れるかもしれない。

 頻繁に電力が余る企業は、取引所の活用を検討してみるべきだ。電気事業者のように顧客企業に対して安定した電力を供給し続ける義務はないので、それに比べれば明らかにハードルは低い。取引を担当する専任者をつけても、コストを上回る売上を得られる可能性は大いにある。

 企業にとっては自家発電設備を持つこと、そして余った電力を売ることを、真剣に考える時代になってきた。ますます電力は売り手市場になっていくだろう。

 ここまで8回にわたって、電力を安く使うための方策を解説してきた。電力会社の料金制度の仕組みから始めて、節電のためのエネルギー管理の方法、蓄電・発電機器による電力使用量のピークカット、さらには新しい電力供給サービスの活用など、できるだけ最新の情報を中心に有効な策を取り上げた。今回で本連載を終了し、今後は新しいサービスや制度が始まるタイミングに合わせて特集で詳しくお伝えする。

*この記事の電子ブックレットをダウンロードへ

連載(1):「料金計算の仕組みが分かれば、電気代をスマートに削減できる」

連載(2):「節電を1台でこなす、デマンドコントローラ」

連載(3):「節電対策の主役に急浮上、BEMSの費用対効果を検証」

連載(4):「蓄電池に夜間の安い電力を、今なら補助金も使える」

連載(5):「昼間の電力ピークカットには太陽光発電、価格低下で普及が加速」

連載(6):「導入企業が増えるガスコージェネ、電気と熱の両方を効率よく供給」

連載(7):「電力会社を使わなければ、電気料金は下げられる」

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