2030年に向けたエネルギー戦略、無理が多い政府の素案法制度・規制

内閣の国家戦略室が中心になって策定を進めている2030年に向けたエネルギー戦略に関して、問題点の指摘が相次いでいる。原子力発電の比率を削減する3つのシナリオを国民に提示して意見を募っているところだが、シナリオを実現するための具体策には無理な点が多く見られる。

» 2012年07月20日 07時30分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 国家戦略室が6月末に示した2030年のエネルギー戦略は、太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を高める一方で、原子力や火力といった安全性や環境面で問題のある電力を減らし、より健全なエネルギー供給体制を構築することが目的である。原子力の比率によって3つのシナリオが提示されており、特に注目は原子力を完全に排除する「ゼロシナリオ」である(図1)。

図1 2030年における電力の構成比に関する3つのシナリオ。出典:国家戦略室

 このシナリオに対して、全国各地の意見聴取会やパブリックコメントの募集を通じて国民的な議論を進め、8月中に「革新的エネルギー・環境戦略」を決定する。しかし国家戦略室が意見聴取会のために用意した説明資料には、多くの国民が実現性を疑うような対策が盛り込まれている。

 資料の中に「原発依存度低減と対になるグリーンシフトの具体像」というタイトルで、3つのシナリオを推進するための対策がまとめられている(図2)。その柱になるのは「再生可能エネルギーの導入」「省エネルギーの推進」「化石燃料のクリーン化」の3点で、それぞれの目標値と具体策が示されている。

 例えば再生可能エネルギーのうち太陽光に関しては、2010年時点で90万戸に設置されている発電設備を2030年に1000万〜1200万戸に導入する。風力に関しては東京都の面積の1.6〜2.2倍のスペースを使って展開する必要がある。さらに化石燃料のクリーン化では家庭用燃料電池を全世帯の1割に相当する530万台も設置しなくてはならない。

 その一方で省エネルギーについては新築住宅すべてが基準に適合することや、電気自動車の割合を全体の2〜3割に引き上げる、といった目標が設定されている程度で、そのほかの企業や家庭における省エネ対策の効果については数値が記載されていない。

 国家戦略室が6月末に公表した資料見ると、電力使用量を2010年比で1割削減することを前提にしている。国全体で節電対策に取り組めば、もっと削減できる余地があるはずだ。そうすれば再生可能エネルギーの導入規模を現実的なレベルに引き下げる余地が生まれる。

 実際に今年の夏は関西電力を除いて原子力発電を使っていない状態ながら、今のところ各地で需要が供給を上回る可能性は低い。これから再生可能エネルギーを現実的なレベルで増やしていき、同時にさまざまな節電対策を企業や家庭で実施することによって、ゼロシナリオを実現することは難しくないと考えるのが妥当だろう。

 国家戦略室が提示した具体策を専門家が再度検証したうえで、国民の判断を仰ぐべきである。2030年に向けた計画を現時点で拙速に進める必要はない。

図2 3つのシナリオを推進するための具体策。出典:国家戦略室

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