データセンター同士を接続する基幹ネットワークをゼロから再設計しよう連載/データセンターの電力効率、コスト効率を上げるには(3)(1/2 ページ)

第2回では、日本のデータセンター利用コストを押し上げている要因を挙げ、コスト削減する方法を提案した。利用コストを下げるためには、データセンターの再配置が必要だと述べたが、今回はその再配置についてさらに踏み込んで解説したい。再配置によって得られる効果は、利用コスト低下だけではないのである。

» 2012年08月28日 09時15分 公開
[中村彰二朗/アクセンチュア,スマートジャパン]

連載第1回:自社サーバを環境性能の高いデータセンターに移設しよう

連載第2回:新しいかたちのデータセンターを日本中に分散配置しよう

 連載第2回では、日本におけるデータセンター事業者のコスト構造に触れ、地方分散や停電時に備える設備の見直しなどで、大幅にコストを削減できること、さらに、その結果として利用者にとっては利用コストの低下につながることを指摘した。

 第3回では、首都圏に集中しているデータセンターを地方に分散させる効果について続けて解説していく。さらに、データセンター事業者同士で設備を共用する事業モデルについても触れたいと思う。

再配置だけでなく基幹ネットワークの見直しも必要

 第2回で述べたように、現在データセンターは首都圏に集中している。産業が盛んな関西や中部地方にもある程度存在するが、首都圏に72%が集中しているという現状は再考の余地がある。

 通信ネットワーク技術が進化し、仮想化技術が現実のものとなり、クラウドコンピューティングの時代が到来している。データセンターにおける障害対応も設計の段階から自動化を目指すように進化している。

 例えばあるサーバで障害が発生したら、そのサーバをラックから引き抜き、新しいサーバを設置して電源を入れるだけで、交換前のサーバと同じように動き始めるという技術も実用のものになっている。あるサーバに障害が発生したときは、ほかのサーバが処理を引き継ぐようにもできるため、故障したサーバを交換するために急ぐ必要もない。

 このような技術の進歩により、障害対応のために高度な技術を持つエンジニアを24時間365日いつでもデータセンターの近くに滞在させておく必要はなくなったのだ。このような現状を考えたとき、果たしてデータセンターを首都圏に一極集中させておく必要があるだろうか?

 図1は、現在のデータセンター配置状況と、将来進むべき道、つまり日本全国に分散配置したイメージを示したものである。現状は、データセンターが首都圏に一極集中しているため、日本の基幹ネットワークは首都圏を中心に日本の各地域にスター状につながっている。

図1 現在の日本のデータセンター配置状況(左)と、将来のあるべき姿(右)(出典:オープンガバメントクラウド・コンソーシアム 2010年)

基幹ネットワークを網の目のように

 第2回で、データセンターを日本全国に分散配置すべきであると説明したが、データセンターを分散配置しただけで、基幹ネットワークは相変わらず首都圏に集中している、という状況では、分散配置する意味が薄れてしまう。

 分散配置の効果を得るには、基幹ネットワークをグリッド(網の目)のように日本全国に張り巡らせる必要がある。具体的には、インターネットプロバイダやデータセンターの相互接続ポイントであるIX(Internet Exchange point)を日本全国に分散配置し、日本中のデータセンターをつなぐ基幹ネットワークを、首都圏を中心としたスター状から、網の目のように(グリッド状に)作り変える必要があるのだ。

 こうすることにより、日本中のデータセンターが最短距離でつながる。現在はデータセンター同士が通信するときは、首都圏を経由させることが多いが、基幹ネットワークがグリッド状になれば、通信路を迂回させる必要もなくなる。

 これで日本の各地域が、データセンター分散配置によるメリットを最大限享受できる環境が整う。例えば、第1回で触れたバックアップ環境の準備だ。日本海側と太平洋側でペアを組んで、お互いが相手のバックアップ機能を持つようにすればよい。日本海側と太平洋側ではなく、もっと離れた地域同士で組むのも良いだろう。重要なシステムなら2カ所以上のバックアップを作るということも考えられる。

 さらに、コンテナを活用したモジュール型のデータセンターを作っておけば、サーバが入ったコンテナをトレーラーでほかの地域に移送するという手段も使える。大災害で停電が起こったときなどは、トレーラーで電源を確保できるところに運べばよい。ほかの地域のバックアップ業務によってコンピュータ・リソースが逼迫するデータセンターに搬入すれば、コンテナ単位でコンピュータ・リソースを追加できる(図2)。

図2 データセンターを分散配置し、複数のデータセンターでバックアップしあう体制を作れば、事故によるトラブルの心配をせずに済む。データセンターを、コンテナを活用したモジュール型にしておけば、停電した地域からコンテナごとデータセンターを移動させるという手段も使える(出典:アクセンチュア)

 現在、日本でもスマートシティの実証実験が行われている。各家庭、オフィス、店舗など、スマートシティを構成する建物のそれぞれの消費電力量を集計、予測し、自然エネルギーによる発電量を計算に入れて、発電所からの電力がどれくらい必要かを計算するには、その地域にデータセンターが必要だ。スマートシティを現実のものにするには、日本各地にデータセンターを分散配置することが欠かせないのだ。そして、自然災害などのリスクを考えると、データセンター同士を結ぶ基幹ネットワークは首都圏を中心に広がるスター状ではなく、グリッド状でなければならない。

 このように、データセンターの分散配置と基幹ネットワークの再構築は、データセンターの最適配置だけでなく、危機管理、地域振興、ひいては日本の成長戦略にも大きく貢献するのだ。

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