原子力に依存しない「革新的エネルギー・環境戦略」が決まる法制度・規制

政府は2030年に向けた「革新的エネルギー・環境戦略(案)」を正式に決定し、原子力に依存しないエネルギー供給体制を構築する方針を明確にした。節電・省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの拡大に加えて、コージェネレーションを含む火力発電の拡充も戦略に組み込んだ。

» 2012年09月14日 20時13分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 産業界をはじめ反対意見が噴出した国のエネルギー戦略だが、政府は国民の意見を尊重する形で原子力に依存しない方向性を選択した。9月14日の夕方に国家戦略室が主宰するエネルギー・環境会議が開かれ、その場で「革新的エネルギー・環境戦略(案)」を決定した。

 従来から公開討論会などを通じて発表してきた内容が中心になっており、原子力発電所の稼働をゼロにする時期を「2030年」から「2030年代」に修正したことを除けば、特に大きな変更点はない。

 戦略の目的である原子力に依存しないエネルギー供給体制の構築を3つのテーマで進めていく。第1は「節電・省エネルギーの推進」で、2030年までに電力使用量を2010年と比べて1割以上削減する(図1)。LED照明などを100%普及させるほか、家庭用燃料電池や次世代自動車を急速に増やす方針だ。

図1 節電・省エネルギーに関する目標達成イメージ。出典:国家戦略室

 これと合わせてピーク時の電力需要の抑制に関しても、家庭や企業におけるスマートメーターの設置、HEMS/BEMS(家庭/ビル向けエネルギー管理システム)の導入、デマンドレスポンスなどの節電メニューの拡大を推進する。

「グリーン政策大綱」を2012年末までに策定

 第2の施策は「再生可能エネルギーの拡大」である。従来から発電量の多い水力発電を除いて、2030年までに約8倍の電力量に拡大させる(図2)。発電能力(設備容量)で見ると12倍の規模にする。

図2 再生可能エネルギーに関する目標達成イメージ。出典:国家戦略室

 固定価格買取制度の対象になっている太陽光、風力、地熱、バイオマスに加えて、太陽熱をはじめとする再生可能エネルギー熱、さらには波力や潮力などの海洋エネルギーの実用化も目指す。

 以上の節電・省エネルギーと再生可能エネルギーに関する施策については、具体的な実現スケジュールを盛り込んだ「グリーン政策大綱」を2012年末までに策定して公表する予定だ。

市場を開放する「電力システム改革戦略」も年末に

 さらに第3の施策として、エネルギーの安定供給体制を確保するために、原子力発電を代替する火力発電を強化する方針も打ち出した。CO2の排出量が比較的少ないLNG(液化天然ガス)を使った火力発電を増やすほか、供給量が安定している石炭による火力発電も拡大する。

 これと並行して、熱と電力の両方を作り出せるために通常の火力発電よりもエネルギー効率が高い「コージェネレーション」を2030年までに電力量で約5倍、発電規模で3倍弱の規模に増やす(図3)。このうち9割近く(電力量で2200万kW)を企業が導入する大型のシステムで実現し、残りを家庭用燃料電池でカバーする計画だ。

図3 コージェネレーションの拡大イメージ。出典:国家戦略室

 以上の3つの施策を推進する一方で、電力市場の開放にも取り組む。家庭や店舗向けの電力市場を自由化し、卸売に関する規制を撤廃する。再生可能エネルギーやコージェネレーションによる発電を最大限に活用できるように、電力会社の発電部門と送配電部門を分離する方針も戦略の中に盛り込んだ。こうした電力市場の改革についても2012年末までに具体案をまとめて、「電力システム改革戦略」(仮称)として公表する。

 今後も国内・海外からの反対意見が相次ぐと予想されるが、国民の多くが支持する方向であり、実現できれば世界をリードするエネルギー先進国になる。新しいエネルギー産業が大きく成長することも期待できる。今後の20年間で政権が何度も変わる可能性はあるが、このエネルギー戦略に関しては内容を修正しながら継続的に実行していくことが不可欠である。

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[続報]原子力に依存しない「革新的エネルギー・環境戦略」

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