地熱発電の巨大な潜在力、新たに「温泉発電」も広がる解説/再生可能エネルギーの固定価格買取制度(7)

日本には温泉が数多くあることからも分かるように、膨大な量の熱や蒸気が地中に溜まっている。その熱や蒸気を利用した地熱発電は、太陽光や風力よりも安定した電力源になる。初期コストの高さが最大の問題点だが、最近は温泉水を利用した小規模で低コストの「温泉発電」も広がってきた。

» 2012年09月19日 09時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]
図1 日本最大の地熱発電所「八丁原発電所」(大分県玖珠郡)。出典:資源エネルギー庁

 日本では以前から大規模な地熱発電所が電力会社を中心に建設されてきた。特に火山の多い東北と九州に集まっている。

 最大の地熱発電所は大分県にある九州電力の「八丁原発電所」で、発電能力は実に110MW(メガワット)に達する(図1)。太陽光発電所や風力発電所を大きく上回る規模で、しかも完成したのは20年以上も前のことだ。

 最近まで地熱発電所の建設計画は極めて少なく、そこにはコストの問題が大きく影響している。地熱発電の仕組みを見ると分かるように、太陽光や風力と比べて複雑な設備が必要になる(図2)。地下水を取り入れるために1キロメートル以上の深さまで掘り下げなければならず、建設費の単価は太陽光や風力の2倍以上も高くなってしまう。

図2 地熱発電の仕組み。出典:電気事業連合

規模が大きくなるほどコストは割安に

 コストが高い割に買取価格は低めに見える。小規模な地熱発電が太陽光と同じ税引き後40円/kWh、大規模な場合は26円/kWhに設定されている。地熱発電の場合は小規模といっても、メガソーラーを上回る1万5000kW(15MW)未満が該当する。建設費は123万円/kWと見積もられており、1万kWの規模だと100億円を超える(図3)。最近の実例が少ないのも当然だろう。

図3 発電方法別に定められた固定買取価格。出典:資源エネルギー庁

 しかし買取価格そのものは初期の建設費と年間の運転維持費、さらに事業リスクを加味して決められているので、決して地熱発電の単価が不当に低いわけではない。資源エネルギー庁の試算では、買取期間の15年間で平均すると、買取価格の26円/kWh(1万5000kW以上の場合)よりもコストはかなり低くなる(図4)。

 発電能力が大きいほどコストは相対的に低くなり、5万kWの場合には買取価格の半分の13円/kWhのコストで済む。固定価格買取制度が開始されて以降、大規模な地熱発電の開発プロジェクトが全国各地で動き始めたのは、このような投資対効果の大きさによるものだ。

図4 地熱発電における発電能力(kW)と発電コスト(円/kWh)の相関。出典:資源エネルギー庁

 地熱発電は水力と同様に気候の影響を受けにくく、安定して発電できる点も大きなメリットになる。現状では初期の建設費が非常に大きいことを含めて、取り組む際のハードルの高さが最大の問題点で、国や自治体による補助金制度の拡充が解決策のひとつになるだろう。

既存の温泉設備を活用できる「温泉発電」

図5 温泉発電システムの設置例(大分県由布市)。出典:神戸製鋼所

 最近になって地熱発電を実現する新しい方法に注目が集まっている。温泉水を利用した「温泉発電」で、これも地熱発電として買取制度の対象になる。

 全国各地にある温泉では、地下から高温の温泉水を吸い上げる設備があるため、それと発電システムを組み合わせることで、建設費を安く抑えられる。しかも短期間に発電を開始することが可能だ。

 大分県の由布院にある温泉旅館が導入した温泉発電システムを例に、買取制度による投資対効果を見てみる。この温泉発電システムは50kWの発電能力があり、本体の価格は2500万円である(図5)。

 地熱発電の発電効率(設備利用率)は70%程度と想定されている。仮に年間で300日稼働させると、約25万kWhの電力量になる。これに買取価格の40円/kWhを掛けると、年間に1000万円の収入を見込むことができる。工事費や運転維持費を含めても早期に採算をとれる可能性が大きい。

 地熱発電は今のところ電力会社を除くと導入事例が少ないが、開発できる余地は数多く残っている。これまで開発が制限されていた国立公園や国定公園の利用条件も緩和される方向にある。温泉発電のような小規模のものを含めて、全国各地で地熱発電が拡大していく期待がもてる。

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連載(1):「日本のエネルギー市場を変革する、新制度がスタート」

連載(2):「電力を高く売るための条件、少しでも安く使う方法」

連載(3):「買取拒否と接続拒否ができる、新制度に残る運用上の問題」

連載(4):「太陽光発電の事業化が加速、10年で採算がとれる」

連載(5):「風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも」

連載(6):「水力発電に再び脚光、工場や農地で「小水力発電」」

連載(8):「バイオマスは電力源の宝庫、木材からゴミまで多種多様」

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