九州の一番西側にある長崎県は島の数が971もあって日本で最多。海岸線の長さは北海道に次いで第2位である。風力発電には絶好の立地で、すでに10か所以上で大型の風車を使った発電設備が稼働している。将来に向けて日本初の浮体式による洋上風力発電プロジェクトも進行中だ。
長崎県には小さな島が数多く点在する。これらの島を含めて県全体の海岸線の長さを合計すると、実に4000キロメートル以上になり、第1位の北海道とほとんど変わらない(図1)。しかも長崎県の面積は北海道の20分の1しかなく、いかに海に囲まれているかがわかる。
特に離島では電力を安定して確保することが大きな課題だ。そのため15年ほど前から島に風力発電所を建設する取り組みが始まり、現在までに10を超える島で風力発電設備が稼働している(図2)。
発電能力が10MW(メガワット)を超えるような大規模な設備も5か所にあって、そのうち3つは平戸島と五島列島にある。離島にある風力発電所としては、新上五島町(しんかみごとうちょう)で稼働中の「新上五島ホェールズウィンドシステム」が好例だ。
海から近い丘の上で8基の大型風車がまわり、最大で16MWの発電能力がある(図3)。これで1万1000世帯分の電力をまかなうことができる。新上五島町の世帯数は1万弱であることから、風力発電で町の電力を自給自足することも不可能ではない。
この新上五島町のすぐ南にある五島市の椛島(かばしま)では、日本で初めての浮体式による洋上風力発電プロジェクトが始まっている(図4)。発電設備を海底に固定する着床式の洋上風力発電は千葉県や福岡県の沖合で実証実験が進められているが、より難易度の高い浮体式は現在のところ国内では椛島沖の設備だけである。
浮体式の風力発電設備があるのは椛島の沖合1キロメートルの場所で、水深は100メートルもある。2012年6月に100kWの小規模な試験機を設置して発電を開始した。さらに2013年度中には商用レベルの2MWの発電設備を使って実証実験に入る予定だ。この実験は環境省が中心になって進めているもので、3年後の2016年度に実用化を目指す。
では、どのようにして発電設備を海上に浮かべるのか。風車の基礎部分は「スパー型」と呼ばれる細長い円筒形の構造でできている。魚釣りに使う「浮き」を想像するとわかりやすい。
現在の試験機は小規模とは言っても、風車を含めると全長が71メートルもある(図5)。このうち半分が海面よりも下にあるスパーで、直径は最大3.8メートルの大きさだ。
スパーにはアンカーと海底ケーブルがつながれていて、椛島から九州電力の送配電ネットワークに接続する形になる(図6)。さらに隣の島にも電力が送られる。洋上風力発電が離島の電力を安定的に確保する手段として適している理由である。
日本は海に囲まれているため洋上風力発電が有望視されているが、水深の浅い海域が少ないことから、深い海域に対応できる浮体式の実用化が待たれている。環境省によると、日本で可能な風力発電の潜在量は陸上が2.8億kW、着床式(水深50メートル未満)が3.1億kWであるのに対して、浮体式(水深50メートル以上)は12.6億kWと4倍以上も多い。それだけに椛島の実証実験に対する期待は大きいものがある。
長崎県の再生可能エネルギーは現在でも風力発電が最大である(図7)。今後も島を中心に、洋上を含めて風力発電の導入量は増え続けていくだろう。
このほか県内には活火山の雲仙岳があることからもわかるように地熱が豊富にある。島でも温泉が湧き出る場所が数多くあり、最近では温泉水を使った発電が始まっている。風力に続いて地熱発電が増えてくれば、電力の自給自足体制がさらに安定する。
*電子ブックレット「日本列島エネルギー改造計画 −九州・沖縄編−Part I」をダウンロードへ
2014年版(42)長崎:「島々にあふれる太陽光と海洋エネルギー、農業や造船業の復活に」
2013年版(42)長崎:「離島に潜在する海洋エネルギー、地熱や太陽光を加えて供給率25%へ」
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